じつはあのエピソードは削られる予定だった!? 京都という舞台にこめた想い。
——『タレーラン』の魅力のひとつに、京都という舞台があると思うのですが、なぜ京都を舞台に。
岡崎 実在の土地を舞台にしようと考えた時に、いちおう自分の住んだことがあるところにしようと思って。そうすると地元の福岡か、もしくは京都かって選択肢があるなかで、福岡のコーヒーも有名なんですが、京都がコーヒーの街として住人たちに受け入れられているので、それで珈琲店を舞台にするならば、じゃあ京都、ということに。
—— コミカライズを担当されている峠先生が、取材で京都を訪れた時には、喫茶店やカフェの多さに驚いたとおっしゃってました。
岡崎 やっぱり大会などで活躍されてるバリスタの方たち、京都の方が非常に多いですね。
——バリスタの大会というものがあるんですね。
岡崎 東京で毎年開催されているものなんですけど、小川珈琲とか京都の有名珈琲店のバリスタさんが多く出場されてます。
——京都には有名珈琲店が数多く存在しますよね。そんななか、どこどこの店が「タレーラン」のモデル。なんて噂もネットではよくみかけますが。
岡崎 よく言われます(笑)。僕もその情報、何回も見たことあります。
——実際に参考にされたお店というのは。
岡崎 それはないですね。本当にいろんな珈琲店が京都にはあるので「こういうお店があってもいいんじゃないかな」って想像してできたのが「タレーラン」です。
——人気作品だと誤ったもの含め、情報がひとり歩きすること多々あると思うのですが、
岡崎 ありますよね(笑)。作者としてはありがたいことだと思うのですが。
お店のモデルに関しては、「タレーラン」の場所というのをかなり具体的に設定しているので、それが噂のもとになっているのかもしれませんね。
ただ読者さんが「ここがモデルなんじゃないかな」っていいながら、本を片手に珈琲店に行かれるというのは、作品を本当に楽しんでいただいているということなので、それはすごくうれしいです。
——作中に登場した場所を尋ねるというのも、『タレーラン』の楽しみ方のひとつかなと思うのですが、やはり現実の京都の街と作品を重ねるということは、かなり意識されてたんですか。
岡崎 京都の名所を扱った小説は、たくさんあると思うんです。けどそういうところだけでない、本当に日常ベースで、住んでいる人たちに共感してもらえる作品を目指したらどうかっていう意識はありましたね。
——書庫やネットでも、実際に京都に住まわれている方の「あそこうちの近くだよ」とか「よくぞこんなところを取り上げてくれた」なんていう意見はたくさんありますよね。特に第三章(原作では第四章)「盤上チェイス」については多い印象があります。
岡崎 「盤上チェイス」については、特に名所がないところで、キャラクターを駆けめぐらせたので。共存地区ならではのミステリーを作ってみました。……じつは文庫での刊行にむけて、応募原稿を書きなおしているときに、この章は1回削られそうだったんですよ。
——そんなことが!
岡崎 もともとかなりややこしい話ではあったので、削ったほうがいいのではという意見もいただいて。ただ最終章にも真実がでてくるので、この章は削りたくないと。なのでよりシンプルにして、最終的にあのかたちになりました。だからほかの章に比べるとページ数も少なかったりします。
今となっては『タレーラン』全体でもキーになる章になったのかと。
——実在する通りの名前がたくさん出てくることもあって、非常に京都感が強いエピソードですよね。
岡崎 読者の方から、「盤上チェイス」の感想をいただくことも多くて、残してよかったなって。僕自身残すべき章だと思っていたので。
ただ地図を入れて欲しかったという声もあったので、それはコミカライズで入ってよかったなあって。
——ありがとうございます。コミカライズするにあたっても、峠先生も私も地図とにらめっこでしたから(笑)。