今、作品を作ることが楽しくてたまらないんです!
―これまでに特にお気に入りのシーンなどがあれば教えてください。
松駒 一番は、やっぱり“仁井くん”のバンドのライブシーンですかね。
―ここはすごい見せ場ですよね。それまでの流れを裏切るインパクトもすごかったですし!
松駒 ハシモト先生もすごくノって描いてくださって……原案を出して半日後くらいにネームが上がってきましたからね。
―“仁井くん”のバンドのライブも実際に見に行かれたってことですよね?
松駒 はい。特定を避けるため、バンドの設定に脚色は加えてますけど……。
―ぜひまたライブシーンを描いてほしいです!
松駒 反響もありましたので、また出していけたらなと思っています。たまには舞台がコンビニを離れるのも新鮮ですし。
―自分の原作がマンガになって「こう変わるのか」と驚くのも、原作者の醍醐味ですよね。
松駒 それを感じたのは、4巻の「700円くじ」の親子のエピソード。これは、ほとんど実話をいじっていないタイプの原案です。マンガになった時の親子のハイテンション加減からも絶望感への落差がものすごくて……ここまで仕上げてくるハシモト先生の技に脱帽です。
―原案になりそうなことは日々メモをとっているのですか?
松駒 これは使えるかもと思ったら、すぐメモをとるようにしています。コンビニのレジって、レシートの紙を出せるのでそれにササッと書いてポケットに……。あっ、あくまで勤務中ですのでヒマな時だけですよ。
―ツイッターでつぶやいている時はともかく、今では日々のノルマになっているわけですよね。一定数のネタをコンスタントに出していくのはプレッシャーになったりしませんか?
松駒 まあ、日頃から日記を書いたりするほうだったので……。
―あ、もともと周囲を観察する目線は備わっていそうですよね。
松駒 そうかもしれませんが……常にストックがあるにこしたことはないので、たしかに気は抜けないですね。
―そして、『ニーチェ先生』は来年2016年に実写ドラマ放映[注1]が決定していますが。
松駒 初めてお話をいただいた時は、実現しないだろうと思っていたので二つ返事でOKしたんですよね。現実味を帯びてきたのは監督[注2]が決まった頃なんですけど、いまだに実感がわかないです。もともと現実の話をベースにマンガがスタートして、それがまた実写ドラマになるというのは不思議な感じです。
―ご自身で実写ドラマを見た時どういう気持ちになるのか、想像できない?
松駒 そうですね。作中の“松駒くん”は自分の分身というより別物だと思ってるので。思い入れはもちろんあるんですけど完全に私というわけでもなくて……うまく言えないですけど。自分のことも自分ではわからないので、客観的に見られない。そもそも違うところがわからない。
―単行本も絶好調、実写ドラマ化もして……これからの野望は?
松駒 今までに自分で達成しようと思って実現した野望ってないんですよね。4巻に載せている「年表」は、中学時代の課題を再現したもので、これを見ると一目瞭然なんですが。
―えっ。これって、本当に中学時代に考えたことなんですか? かなり細かく書かれてますけど。
松駒 はい。ひとつもかなってはいません(笑)。それでも、本を出してみたかったという夢は、流されるようにですが実現したので、やれるところまではやりたいと思っているくらいで……。
―でも、流されながらも、想像もしなかった「マンガ原作者」としてここまで到達したのもひとつの歩みかたなのでは。
松駒 始めたからには終わりまできっちり仕事したいと思っています。なんだか消極的な言いかたばかりしてますけど、今、作品を作っていてすごく楽しいんです。文章を書くって孤独な作業ですけど、自分の書いた原案を編集さんが構成を考えてくれ、ハシモトさんが絵にしてくれて……3人で作っている手応えがすごくあって。3年前、マンガ化のお話を引き受けてよかったと痛感しています。そのほか、ドラマCDや実写ドラマにもたくさんの人が関わってくれていて、感謝してもしきれないです。私にとっても、関わってくれている方、読んでくださってる方にとっても、いいかたちで続いていく作品にできれば、と心から思っています。
取材・構成:粟生こずえ
撮影:高部哲男
- 注1 ドラマ化 松駒くん役の浦井健治、ニーチェ先生役の間宮祥太郎のダブル主演。2016年1月からインターネット映像配信サービス「Hulu」で配信、地上派でも放送予定。
- 注2 監督 ドラマの監督・演出を手がけるのは福田雄一。監督デビュー作は『The3名様』。『アオイホノオ』『勇者ヨシヒコ』など独特の世界観を持つ映像は多くのファンに愛されている。