日々発売される膨大なマンガのなかから、「このマンガがすごい!WEB」が厳選したマンガ作品の新刊レビュー!
今回紹介するのは、『先生の白い嘘』
『先生の白い嘘』第4巻
鳥飼茜 講談社 ¥500+税
(2015年10月23日発売)
男たちよ。ページごとにこだまする、女の叫びを聞くが良い。
女達よ。目覚めよ。たとえ痛い目覚めであっても。
これは第2巻の巻末に寄せられた、漫画家・萩尾望都によるエッセイのなかの一節であるが、この第4巻のカバーイラストは、本作における男性的性暴力の象徴と呼べるだろう早藤透が飾っている。
過去3巻のカバーには、原美鈴と新妻祐希が選ばれていた。親友・渕野美奈子の彼氏・早藤透にレイプされた教師・美鈴と、バイト先の社長の奥さんに逆レイプされEDになった高校生・新妻はともに、本作における性暴力の被害者たちだ。
対して早藤は、「初モノ喰いの鬼畜」と噂されるように、弱者を犯し支配することに快楽を覚える、嗜虐心に満ちた性暴力者である。そしてそんな早藤の周囲がざわめきはじめるのが、この第4巻と言える。
ここでは(美鈴と新妻との関係の深まりと同時に)、早藤が女の性欲を前に揺らぐ様が描きだされていく。
その意味では、この群像劇ははじめに引いた萩尾望都の言葉以上のものすら含んでいる。
ここには、性に蹂躙される女性たちとともに、また違うかたちで翻弄される男性たちの姿があるからだ。
そして、それもまたきっと、「これまで存在していたのに誰も語ってこなかったものだ。語られてやっと見えるものになる」(萩尾望都)ような光景として示されていくのだろう。
本作に満ち満ちる人の悪意の渦を、たとえその直視が痛くとも、止めることはできない。
<文・高瀬司>
批評ZINE『Merca』(アニメルカ×マンガルカ×ジャズメルカ)主宰。アニメ/マンガ論を『ユリイカ』などに寄稿。インタビュー企画では「Drawing with Wacom」などを担当。
TwitterID:@ill_critique
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