バンド・デシネと日本マンガのハイブリッド
――本作の特徴のひとつとして、当初フキダシがすべて横書きだったという点も挙げられます。これはバンド・デシネ(以下BD)[注7]の影響だとうかがいましたが。
相澤 そうです。じつは組みかたも普通のマンガとは反対で、左開きだったんです。「電脳マヴォ」で作品を見てもらっている時、主宰の竹熊健太郎さん[注8]が「これからは左開きだ」とおっしゃっていたので、その影響もあります。
――世界各国でローカライズしてアウトバウンドしていくには、たしかに理に適っていると思います。
相澤 ただ、今回「『このマンガがすごい!』大賞」を受賞して単行本を出してもらうにあたり、やはり右開きのほうがいいだろうということで、一生懸命直しました(笑)。
――ほう、それはなかなかたいへんでしたね。
相澤 ただ、フキダシは別レイヤーなので、直せるように作ってあったんです。コマ割の一部はけっこうしっかり修正が必要で……ちょっと手直しをしましたね。
――日本で普通にマンガを読んでいると、なかなかバンド・デシネに触れる機会ってないと思うんですけど、どういった経緯で知ったんですか?
相澤 最初に興味を持ったのは『タンタンの冒険』ですね。日本のマンガって、生産性重視なところがあるじゃないですか。
――雑誌連載がベースですからね。
相澤 そのスピード感で作品を描いていくというのが自分にはムリそうだな、と思ったんです。で、バンド・デシネという1冊にすごく時間をかけて作っていく業界がある、ということを耳にして興味を持ったんです。知ってみると、バンド・デシネにはすごい人たちが大勢いるじゃないですか?
――メビウス[注9]とか?
相澤 そうです、そうです。彼らの作品を見て「絵がスゴイなぁ」と単純に絵に惹かれました。だからフランスに旅行した時には、パリの本屋さんを見てまわって買えるだけバンド・デシネを買って、持ち帰ってきました。言葉はわからないからストーリーは読めないんですけど、とにかく絵のすばらしさに感動します。
――先ほどコマ割の話が出ましたが、バンド・デシネって日本のマンガの文法じゃないですよね?
相澤 そうですね。
――アメコミやグラフィティ・ノベルにもいえることですが、コマごとの絵の完成度が高くて、次のコマとの動的な連続性が希薄なんですよね。アニメに例えると、原画と原画はあるけど、間の動画がない、みたいな。でも相澤さんのマンガは、バンド・デシネ的なコマ配置でありながら、文法としては日本マンガにのっとっていますよね?
相澤 はい。絵ではバンド・デシネに親近感を持ちつつも、文法は日本マンガのスタイルです。文法は日本のマンガのほうが先を行っていると思うんですよ。
――ストーリーを物語るには日本のマンガスタイルがよいと?
相澤 はい。だからハイブリッドでいきたいと思ってます。日本のマンガで育ったという部分は大事にしたいです。
- 注7 バンド・デシネ bande dessinée。フランス語圏(フランス・ベルギー)のマンガ。略称はB.D.(ベデ)。
- 注8 竹熊健太郎さん 「電脳マヴォ」を主宰。エッセイスト、編集者、マンガ原作者。主な著作に『サルでも描けるまんが教室』(作画:相原コージ)、『マンガ原稿料はなぜ安いのか? 竹熊漫談』など。
- 注9 メビウス SF映画のデザイナーであるジャン・ジローのペンネーム。B.D.作家として世界的に有名。日本のアニメ・マンガ業界にも多大な影響を与えた。
©相澤亮/宝島社