このマンガがすごい!WEB

一覧へ戻る

第6回『このマンガがすごい!』大賞 受賞記念インタビュー 相澤亮『雪ノ女』 受賞歴多数の期待の新鋭が魅せる古典怪談の“続き”

2015/12/09


バンド・デシネと日本マンガのハイブリッド

――本作の特徴のひとつとして、当初フキダシがすべて横書きだったという点も挙げられます。これはバンド・デシネ(以下BD)[注7]の影響だとうかがいましたが。

「電脳マヴォ」に連載された時のページを見ると、ほんとにセリフが横書き! 日本のマンガを読み慣れているとちょっと不思議な感じ。しかもタイトルも違う。(投稿作「雪女」は「電脳マヴォ」に掲載中)

「電脳マヴォ」に連載された時のページを見ると、ほんとにセリフが横書き! 日本のマンガを読み慣れているとちょっと不思議な感じ。しかもタイトルも違う。(投稿作「雪女」は「電脳マヴォ」に掲載中)

相澤 そうです。じつは組みかたも普通のマンガとは反対で、左開きだったんです。「電脳マヴォ」で作品を見てもらっている時、主宰の竹熊健太郎さん[注8]が「これからは左開きだ」とおっしゃっていたので、その影響もあります。

――世界各国でローカライズしてアウトバウンドしていくには、たしかに理に適っていると思います。

相澤 ただ、今回「『このマンガがすごい!』大賞」を受賞して単行本を出してもらうにあたり、やはり右開きのほうがいいだろうということで、一生懸命直しました(笑)。

同じシーンですが、こちらは単行本バージョン。右開き、フキダシ縦書きに変わるだけで印象がぜんぜん違うことにびっくり。

同じシーンですが、こちらは単行本バージョン。右開き、フキダシ縦書きに変わるだけで印象がぜんぜん違うことにびっくり。

――ほう、それはなかなかたいへんでしたね。

相澤 ただ、フキダシは別レイヤーなので、直せるように作ってあったんです。コマ割の一部はけっこうしっかり修正が必要で……ちょっと手直しをしましたね。

――日本で普通にマンガを読んでいると、なかなかバンド・デシネに触れる機会ってないと思うんですけど、どういった経緯で知ったんですか?

相澤 最初に興味を持ったのは『タンタンの冒険』ですね。日本のマンガって、生産性重視なところがあるじゃないですか。

ベルギーの作家エルジェのB.D.。少年記者タンタンがさまざまな事件に巻き込まれる冒険活劇は日本でも大人気。

ベルギーの作家エルジェのB.D.。少年記者タンタンがさまざまな事件に巻き込まれる冒険活劇は日本でも大人気。

――雑誌連載がベースですからね。

相澤 そのスピード感で作品を描いていくというのが自分にはムリそうだな、と思ったんです。で、バンド・デシネという1冊にすごく時間をかけて作っていく業界がある、ということを耳にして興味を持ったんです。知ってみると、バンド・デシネにはすごい人たちが大勢いるじゃないですか?

――メビウス[注9]とか?

相澤 そうです、そうです。彼らの作品を見て「絵がスゴイなぁ」と単純に絵に惹かれました。だからフランスに旅行した時には、パリの本屋さんを見てまわって買えるだけバンド・デシネを買って、持ち帰ってきました。言葉はわからないからストーリーは読めないんですけど、とにかく絵のすばらしさに感動します。

――先ほどコマ割の話が出ましたが、バンド・デシネって日本のマンガの文法じゃないですよね?

相澤 そうですね。

――アメコミやグラフィティ・ノベルにもいえることですが、コマごとの絵の完成度が高くて、次のコマとの動的な連続性が希薄なんですよね。アニメに例えると、原画と原画はあるけど、間の動画がない、みたいな。でも相澤さんのマンガは、バンド・デシネ的なコマ配置でありながら、文法としては日本マンガにのっとっていますよね?

相澤 はい。絵ではバンド・デシネに親近感を持ちつつも、文法は日本マンガのスタイルです。文法は日本のマンガのほうが先を行っていると思うんですよ。

――ストーリーを物語るには日本のマンガスタイルがよいと?

相澤 はい。だからハイブリッドでいきたいと思ってます。日本のマンガで育ったという部分は大事にしたいです。


  • 注7 バンド・デシネ bande dessinée。フランス語圏(フランス・ベルギー)のマンガ。略称はB.D.(ベデ)。
  • 注8 竹熊健太郎さん 「電脳マヴォ」を主宰。エッセイスト、編集者、マンガ原作者。主な著作に『サルでも描けるまんが教室』(作画:相原コージ)、『マンガ原稿料はなぜ安いのか? 竹熊漫談』など。
  • 注9 メビウス SF映画のデザイナーであるジャン・ジローのペンネーム。B.D.作家として世界的に有名。日本のアニメ・マンガ業界にも多大な影響を与えた。

単行本情報

  • 『雪ノ女』相澤亮 Amazonで購入

関連するオススメ記事!

アクセスランキング

3月の「このマンガがすごい!」WEBランキング