この自虐センス……ようやく時代が追いついた!?
――「ダサい」という言葉をもじった「ダ埼玉」という言葉をタモリ[注3]が流行らせたのも、『翔んで埼玉』の発表と同じく、80年代のことでした。
魔夜 そうなんですか。埼玉は全日本の代表的な「いじられキャラ」ってことでいいんじゃないですか?(笑)
――「いじられるキャラ=かわいがられキャラ」ですよね。その自虐の感覚、よくわかります。私は東京生まれではありますが、23区外の西東京育ちという意識はすごくあります。
魔夜 やっぱりみんな自虐的なんでね。西東京なんていうのも自分だけの劣等感だと思うんですよ。外から見たら東京だし。
――作中に登場する東京の名門・白鵬堂学院では、都会指数でクラス分けされてますよね。西東京人は肩身がせまい(笑)。
魔夜 しかし今見ると、我ながらよく描いたなぁと思いますね。
――ムチャクチャ描いてますよね、たたみかけるように次々と繰り出される埼玉dis!(笑) 当時、文句を言われたりしなかったんですか?
魔夜 なかったですね。とにかくこの作品は、よくも悪くも反響がなかったんです。
――それが見直されるというのは、今の時代になってようやくこうした冗談のセンスが行きわたったということではないでしょうか。時代が魔夜先生に追いついた!
魔夜 時代は変わったと思いますよ。たしかに自虐的なギャグって当時は一般的ではなかったと思います。今は、自虐なり他人にいじられるなり……それが楽しめる時代になっている。
――社会が成熟したということでしょうか。小さい子には自虐の笑いってわからないですよね。大人になれば理解できて、ギャグとして使いこなせるようになっていく。
魔夜 大人になって塩辛の味がわかるようになるみたいにね。マンガという文化そのものがある意味成熟の域に達したといえるかも。先日、この復刊を「直撃LIVEグッディ!」[注4]という番組で取り上げてくれたんですが、土田晃之さんが「これで怒る埼玉県人がいたらそれこそ田舎もんだろ」と言ってまして……彼は埼玉出身だそうですが。たしかにそうだなと思いました。
――むしろ、埼玉県民にとって栄誉だと思います!
魔夜 あっ……でも当時、茨城県の人には怒られました。
――そういえば茨城ネタもちょっと出てきますね。
魔夜 奥さんが茨城の人なんですよ。当時はまだ結婚前だったんですが、身内みたいなものだからと思って描いたら、茨城の親戚からえらいクレームつけられたんですよね。
――そうだったんですか。あれだけ描いても文句をいわない埼玉県民はやっぱり懐深いのかも。今回の復刊では西武線、東武東上線にも広告が登場するなど、ご当地で盛り上がりそう。埼玉の書店からのオーダーも多いそうですし、地元の書店がどんなポップをつけるのか気になります。
魔夜 じつは今回の復刊で、埼玉新聞社さんからも取材が来てます。
――もう魔夜先生、埼玉の名士じゃないですか! いっそ市役所とかでも売ってほしい(笑)。
魔夜 いまだに『翔んで埼玉』が受けいれられている状況が信じられないですよ。
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- [注3]タモリ 言わずと知れた元・お昼の顔。当時(『笑っていいとも!』開始前後)のタモリは毒舌家として知られ、地方ネタでは他に、名古屋disを繰り広げていたことが有名。
- [注4]『直撃LIVE グッディ!』 フジテレビ系列で生放送されているワイドショー。2015年3月30日より放送開始。MCは俳優の高橋克実とニュースキャスターの安藤優子で、曜日ごとに異なるパネリストが出演する。話題に出た埼玉県出身のお笑い芸人・土田晃之氏は金曜日レギュラーのパネリスト。ちなみに土田氏と『翔んで埼玉』について語り合ったMC・高橋克実氏の出身地は、魔夜先生と同じく新潟県。
取材・構成:粟生こずえ
撮影:辺見真也