もともとはBLの予定? 連載開始までの経緯
――落語の世界を題材にした理由をお聞かせください。
雲田 もともと江戸文化が好きで、落語もそのひとつだったんです。
――連載前からかなりお好きだったんですね。
雲田 いやぁ、でも連載を始めると同時にしっかり勉強しはじめた感じです。マンガに描くとなるとくわしくなれるので、「もっとくわしくなりたい」っていう思いでした。
――編集部から雲田先生にお声かけを?
担当 そうです。すでに雲田先生は『窓辺の君』というBLの短編集を1冊出していたんですけど、登場人物すべてキャラが立っていたんです。ですから「尋常じゃない人が出てきたぞ」と思っていました。
――最初に「落語でいきます」と聞いた時は、どう思いました?
担当 こちらからリクエストしたので、基本的には「なんでもOK」くらいの気持ちでした。それに落語といえば着物じゃないですか。雲田先生の絵で着物……もうそれだけでOKだな! って(笑)。
――編集サイドでは、どのあたりで手応えを感じました?
担当 ネームの段階で、八雲師匠が出てきたところですね。ネームのなかで八雲師匠が動いているのを見た時に、「これはみんな好きなハズだ」って思いました。読者さんは主人公とその周辺人物を含めた「主人公軍団」に惚れると思うんですけど、主人公の与太郎にしても、松田さんにしても、最初からみんなキャラが立っていたんですね。
――雲田先生はいかがですか?
雲田 連載開始前はBLしか描いたことがなかったので、どう描いたらいいのかわからなくて、でも描きたいものを描けばいいのかなと思いまして、えいと作ったらけっこうBLっぽくなったんですね(笑)
担当 雲田さんのキャラは男女問わず、おのずと色気が漂うところがあります。
雲田 「でもまあ、濡れ場さえ描かなきゃいいのかな。」くらいの気持ちで(笑)。
担当 そうだったんですか(笑)。
雲田 だから萬月さんにしてもヤクザの兄貴にしても、わりとBLによくいるタイプのキャラなんですよね。シチュエーションなんかも。
――膝枕とか。
雲田 そうそう。もちろんBLをご存じない読者さんが嫌悪感を感じるようなものは描かないですけど、じゃれあい程度ならいいのかなと思って。だって皆ほっこりするでしょ、そういう仲よしって(笑)。
――そうだったんですか?
雲田 ちょうど描きはじめの頃は落語ブーム[注11]が一段落していたので、描きながら「今更落語ものとか、これ絶対売れないな」って思ってました。担当さんにはたいへん申し訳ないんですが(笑)
担当 ええーッ!
雲田 まあでも自分の好きなものを描ければいいや、っと。それに最初は読み切りの予定でしたしね。「それで収まらないからもうちょっと伸ばしましょう」と担当さんに言ってもらえて、それでも最初はせいぜい3巻に収まるくらいの想定でした。
――あれ? じゃあ過去編はそんなに長くやる予定はなかったんですか?
雲田 そうです。だから1巻が駆け足なのは、3巻完結の前・中・後編の前篇と思って描いてるからなんです(笑)。でも、だんだん読んでくださる方が増えてきて「ちゃんとしなきゃやばい」と(笑)。いろいろと軌道修正しつつ。今は1巻の尻拭いに奔走しております。
――読者の反響はどうでした?
担当 第1話の段階で「なんかおもしろそうなのが始まったぞ」と好感触をいただきました。雲田先生のキャラクターは、読者が妄想をかき立てられるんですね。なかなか希有だと思います。このキャラクターがいれば、連載はいくらでも伸びるだろうと思ってました。ですから読者の反響がすごくよくて、そこは本当に「よかったなぁ」と。
――男性の読者も多いですしね。
雲田 新創刊の「ITAN」で対象読者さんのイメージがまだ定まってなかったので、よかったのかもしれません。これが歴史のある少女マンガ誌だったら、また違うことになっていたと思います。
- 注11 落語ブーム 2005年に放送されたTBS系列のテレビドラマ『タイガー&ドラゴン』(主演:長瀬智也、岡田准一)や2007年に放送されたNHK連続テレビ小説(朝ドラ)『ちりとてちん』(主演:貫地谷しほり)など落語をテーマにしたドラマのヒットにより、若い世代が落語に興味を持つようになり、寄席に行く若い人も増加した。