歴史ファン大注目『雪花の虎』は、愛息・ごっちゃんの同級生も注目!
――さて一方で、小学館「ヒバナ」で連載中の歴史ロマン、『雪花の虎』なんですが、この作品にはびっくりしました。歴史モノをやるなら、東村さんの場合、三国志かと思っていたので。
東村 ただ三国志の知識も『蒼天航路』とコーエーのゲームだけなんですよ。横山光輝版『三国志』も3巻くらいで脱落しているので(笑)。
――では『雪花の虎』の発火点は?
東村 かなり前に本屋で『上杉謙信は女だった』というタイトルの表紙を見かけたことがあって、へーって思ったんですよ。歴史にあまり興味がなかったので、買わなかったけど。
――戦国時代に関して、どのくらいの知識があったんですか? やっぱりゲームでしょうか?
東村 そうです。『かくかくしかじか』にも登場する当時の彼氏の西村君が、「信長の野望」をやっていて。私、政治とか武将の名前とかは全然わからないけど、陣形には強いんですよ。だから野戦のときだけ参加させられて(笑)。
――そんな歴史ロマンと縁遠い東村さんが、有名な戦国武将を主人公にするとは。
東村 私、さっきの『美食探偵』の時も話題に出しましたけど、宝塚が好きなんですよ。上杉謙信女性説の本を最初に見かけたときに、「これって和製『ベルサイユのばら』じゃん……!」って思ったんです。だから「うまくいけば宝塚の演目になるぞ!」って(笑)。そこが原動力です。
――そんな野望が秘められていたとは。
東村 下心がないとマンガなんて描けないですからね。
――本作をとおし、いろいろと調べてみて、上杉謙信のどこが魅力的ですか?
東村 いい意味で欲がないところですね。領地を広げるための戦をしていないっていうのは有名な話なんですけど、考え方が女性的で好きなんです。
――上越市にも取材に行かれたそうですね。
東村 歴女じゃないから、初めてのことばかりでした。山城って言葉も初めて知って。「天然の要塞なんて、かっこいいな」って。新参者だから素直に見られるんですよ。博物館とかも楽しくて。知らないことだらけだから。
――今はもう、どっぷりと詳しい?
東村 16歳の謙信まではくわしいです。でも川中島の戦いとかは全然。虎と一緒に歩んでいるから、資料や小説も、いま描いているところまで読む。そのほうがライブ感が出て、ドキドキするんですよ。
――歴史マニアからのツッコミ対策は万全ですか?
東村 下絵段階で専門家に見てもらっているんです。「石灯籠はこの時代にない」って言われたら消すとか。最初は一緒に学者の方が考えてくれるんじゃないかって思っていたんです。でも一切、そういうブレーンはつかなくて。これは『美食探偵』と同じく衝撃を受けましたね。
――現在、4本の連載を抱えていますが、作業のペースはどんな感じなんですか?
東村 月の前半に全部やっちゃうことが多いですね。ごっちゃん[注1]の学校の保護者会とか塾の送り迎えとかもあるので、後半は主に育児を。
――お母さんのマンガ、ごっちゃんも読んでいますか?
東村 『雪虎』はおもしろいって言ってました。ごっちゃんに歴史オタの友だちがいるんですけど、『雪虎』で初めてリスペクトの視線を向けてきました。それまでは「なんかマンガ描く人らしいね」みたいな感じだったのに、授業参観の時に「雪虎の2巻、いつでるんですか?」って。そんなこと言われたの、初めてですよ(笑)。
――いろんなジャンルの作品を同時に連載するのはたいへんですか?
東村 描いていてつらいっていうのはないです。『美食探偵』もトリックを考えるのはシンドイけど、絵を描いている時は楽しいし。最近、ロフトプラスワンで「東村プロ 漫画お笑いライブ」[注2]というイベントをやったんですけど、コントの脚本も書きました。やっぱりいろいろなことをやらないと脳が活性化しない。イベントにはいろんな若手芸人に出てもらったんですけど、マンガのネタにもなるし、楽しかったな。
――もしかしたら芸人マンガもいつの日か?
東村 おもしろそうですよね。
――本日はありがとうございました!
- [注1]ごっちゃん 東村アキコ先生のご子息。本名は「悟空」くん。育児エッセイマンガ『ママはテンパリスト』では彼の成長ぶりと育児のたいへんさが描かれ、その内容が話題となり大ヒット(『このマンガがすごい!2010』第3位ランクイン)。ごっちゃんは『かくかくしかじか』やほか作品にも登場する。
- [注2]「東村プロ 漫画お笑いライブ」 2016年4月15日に新宿・ロフトプラスワンで開催されたイベント。テーマは「漫画」×「芸人」。東村先生が初めてコントを書き、さらにコントも披露。様々な「漫画ネタ」をする芸人の方々をゲストに迎えた、漫画好きの漫画好きによる漫画好きのためのお笑いライブ。
取材・構成:奈良崎コロスケ