人気漫画家のみなさんに“あの”マンガの製作秘話や、デビュー秘話などをインタビューする「このマンガがすごい!WEB」の大人気コーナー。
今回お話をうかがったのは、柏木ハルコ先生!
「ビッグコミックスピリッツ」で連載中の『健康で文化的な最低限度の生活』の主人公は、人とのコミュニケーションを取るのが苦手な新社会人・義経えみる。えみるは、生活保護を扱う福祉事務所に配属されて、自分には想像もつかない人生を歩んできた受給者たちに向きあっていく……。
えみるのまっすぐな姿、生活保護現場のリアルな描写が話題を集め、『このマンガがすごい! 2015』オトコ編第10位にもランクインした作品です。
インタビュー第1弾では、テーマに生活保護を選んだきっかけ、作品を描くモチベーションなど、本作への想いについての話題を中心にうかがいました。
<インタビュー第1弾>
【インタビュー】柏木ハルコ『健康で文化的な最低限度の生活』 SEXや恋愛ではなく生活保護がテーマ! 柏木ハルコの挑戦!!
インタビュー第2弾では、柏木先生に、本作における表現のこだわりや、今後の展開、漫画家としてのルーツなどをお話いただきました!
リアリティを生むこだわりの表現。その秘密は、取材にあり!
――前回のインタビューで、柏木先生が想像できない体験をしてきた人たちを描くのがこの作品の課題だと伺いましたが、それを絵で表現するうえでは、どんなことにこだわっていますか?
柏木 受給者本人、ケースワーカーたちの表情、しぐさといった細かいところも含めて1つひとつを丁寧に描いていくというところですね。そしてそのために、わからない部分は極力取材で補うようにしています。
――取材で特に気をつけていることはあるのでしょうか。
柏木 マンガのキャラクターは絵で描く必要がありますから、取材では話を聞くのみならず、口調だったり、しぐさだったり、目つきだったり……その外側から見た1つひとつの要素をしっかり拾い上げるということも重要になってきます。そういうところは、すごく気をつかって表現しないといけないし、表現していきたいと思っている部分なんです。
――丁寧な取材で拾い上げてきた情報をきっちり表現することが、生活保護現場のリアリティにつながっているんですね。
柏木 たとえば第3巻から登場する島岡君は、父親から逃げている男性なんですけれど、ちょっとぶっきらぼうな話し方をしたり、人と目を合わせなかったり……その人がなぜそうなったのかということも含め、打ちあわせで人と話すことによって少しずつ作り上げていきます。
島岡君が、父親が自分に会いにきているという話を聞いて「無理」ってなるコマなんかは、ある人に「親とうまくいってない人のところに、いきなり親が来たらどうなると思う?」っていう質問をした時の「無理無理無理」っていう返しが、アイディアのもとになっているんです。
──ほかにも絵の表現でいうと、受給者の部屋も結構すごいというか、その人の生活の様子が伝わってきますよね。本当に細かく描きこまれています。
柏木 この部屋は、アシスタントさんに描いてもらったんですよ。「認知症のおばあちゃんが住んでいて、ちょっと汚れている」とか指示すると、テーブルの上に置かれっぱなしのみかんの皮とか、ごろんと置かれたぬいぐるみとかを描いてくれるんです。
じつは私、この作品を描く前に遺品整理の取材をしたんです。第1話で、自殺した受給者の部屋を描いたんですけど、部屋にはその人そのものが表れると実感して……、いろいろと思うところがありました。なんか、人間の努力っていじましいというか……。そういうのを描きたいですね。部屋に表れるその人の思いみたいなものって、すごく切ない感じがするんです。部屋は、今後もこだわって描きたいです。