──先生の原画の魅力のひとつに色合わせの美しさがあると思うのですが、参考になさっているものはあるんでしょうか?
竹宮 参考にしているものはないんですけど、子どもの頃から塗り絵が好きで、その頃には「何色と何色には何色が合う」というようなことは頭に入っていました。ピンクとブルーを合わせるとか聞くと、「じゃなくて~」と思いながら少し外して茶色を合わせたりして。色の訓練はそこでできていたのかな。中学に入ってからは色環と明度に夢中になって、「普通だったら合わない色も明度を変えると合う」ということに気づいたり。色って本当に無限だなと思っていました。
──色でいうと、中間色が多いなかで、とびきりビビッドな色を使った「かもめ」が印象的です。
竹宮 フランスブルー(ヴィンテージのフランス製の布などに使われているビビッドな青)ってあるんですよ。それはフランスに行くと会える色なんですけど、普通にはなかなか会えない色なんですね。だから、自分で塗ってみたい! と思って、この色を作るのに夢中になって。印刷でもなかなか出ない色なんですけど、今回の原画集ではきれいに再現できたと思います。
──トークショーでも印刷の話が出ましたが、やはり原画ダッシュへのとりくみはそのあたりが出発点になっているのでしょうか?
竹宮 そうですね。自分で調整すれば、原画とそっくり同じものが作れるという事実が私を夢中にさせたんですね。自分の作品がそうできるとわかったら、今度はいろんな人の原画ダッシュを作ってみたくなって、お声かけさせていただいたりして。
──特にカラーインクの彩色は、光をあてると褪色しやすいと聞きますし、展示という観点からも原画ダッシュの需要はありそうですね。
竹宮 外国からもよく展示の依頼をいただくんですけど、どういう状態で展示するのかわからないし、長い間貸し出すことを考えると、信用するしないの問題ではなく、やはり心配だったりするんですね。そういう時に気軽に出せるものとして原画ダッシュはいいのかなと思います。
──その技術のおかげで、いろんな方の家にジルベールがやってくることにもなったわけですし。
竹宮 印刷技術の発展もあると思うんですね。取り組みを始めた当初は印刷と原画の違いには大きなものがあったんですけど、最近はぱっと見よく似たものが出せるようになってきました。なかには「どれぐらい細密か点眼鏡で(原画ダッシュを)見てみた」という方もいるんですけどね。印刷はすべての色が点で構成されていますから、ドットが出ないようにはできないんですけど(笑)
──好きが高じたんでしょうか(笑)。私は「森の恵み」が好きです。草や木の実は水彩で、影にだけペンが入っている先生の絵のなかでも珍しい1枚です。
竹宮 普通だったらペンはペン、水彩は水彩ということになるんでしょうけれど、私にはそんなに垣根がないんですね。そもそもマンガ自体が垣根のない自由なものなわけで。この塗り方はたしか安野光雅さんがそういう塗り方をされていた時期があって、自分もやってみたくて真似てみたんです。技術というのは真似てみないとわからないので、どこをどう工夫しているのか知りたくて。
──好奇心が先生の画風を広げてきたんですね。
竹宮 仕事で練習をするなという話なんですけど(笑)、いざやってみると思った以上によくなる絵があるんですね。例えば「遠い声」は、補色関係の紫と黄色だけを使って描いてみようと思った1枚です。補色を混ぜるとグレーに濁ってしまうので、混ざらない画材を使わないとうまくいかないと思ってポスターカラーを使ったんですが、濁らない程度に混ぜるのが難しくて。黄色の部分に上からインクを乗せたり、グレーになる部分は青でごまかしたり色々しています。
──補色なんですけど、優しいというか、柔らかい印象をうけます。ちなみに、この時のジルベールはどこにいて、何を見ているんですか?
竹宮 これは、寮の自分たちの部屋で、セルジュが虫干しした本の上に乗っかっちゃって、声がしたからそっちを見ているんでしょうね。その先にいるのは、セルジュだと思います。セルジュはいろんな子たちと交わる人なので、遊んでいるのかもしれないし、たまたまひとりで通りかかったのかもしれないし。
──1枚の絵から物語が広がりますね。そんな想いのこもった原画集ができあがっての感想はいかがですか?
竹宮 そうですね。色に関しては本当に微妙なところまでよく出ていると思います。じつは最初は高い画集なのに薄くて大丈夫かな? と心配していたんですけど、実際に手にとってみると、表紙の紙が薄くて柔らかいおかげでどのページも開きやすく、絵がしっかり見えるんですね。イラスト集としてだけでなく、飾って楽しんで頂ける原画集になっていますので、ぜひ2冊お買い求めいただければと思います(笑)
──竹宮先生、ありがとうございました!
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