人気漫画家のみなさんに“あの”マンガの製作秘話や、デビュー秘話などをインタビューする「このマンガがすごい!WEB」の大人気コーナー。
今回お話をうかがったのは、岩本ナオ先生!
「このマンガがすごい!」2010年度、2011年度にランクインし、多くのマンガファンのハートをつかんだ『町でうわさの天狗の子』。
このハートフルながらこれまでになかった心温まる長編が完結してから、およそ2年半ぶりに発表された岩本ナオ先生の新作『金の国 水の国』が、このたび『このマンガがすごい!2017』オンナ編第1位に輝きました!
『このマンガがすごい! 2017』
『このマンガがすごい!』編集部(編) 宝島社 ¥520+税
(2016年12月10日発売)
物語はエキゾチックなおとぎ話ふうファンタジー。対立する2つの国の男女が偶然出会い、ひょんなことから夫婦のふりを始めることに! 双方の文化や歴史、偏見を乗り越えてゆく2人。心にしみる2人のラブロマンスはもちろんのこと、ワクワクドキドキが止まらないアクションシーンなど、エンターテインメントにあふれた作品です。
本誌『このマンガがすごい!2017』 でも8ページにわたって岩本ナオ先生のインタビューを掲載していますが、それでも紹介しきれなかったお話も盛りこんだディレクターズカット版として、『このマンガがすごい!WEB』限定でお届けしちゃいます!
マンガファンが待っていた“岩本ナオ・ファンタジー”の魅力に迫ります!
ファンタジー好きが高じて、西洋史を学んだ大学時代
――岩本先生は子どもの頃からファンタジーが好きだったんですか?
岩本 昔から好きですね。いろんなマンガを読んできましたが、強烈に赤石路代先生の描くヨーロッパに憧れた、子どもの頃の刷りこみは大きいと思います。 『王家の紋章』のキャロルの服もめっちゃかわいくて夢中になりましたし……。
――岩本先生は大学で西洋史を学んだそうですが、マンガの影響もあったのかもしれませんね。
岩本 そうかもしれません。中学・高校時代に西洋史に興味を持つようになって。十字軍の服とか、すごく好きでしたね。大学時代の専攻は古代ギリシャ・ローマです。卒論のテーマは「ギリシャ彫刻」。あの、古代ギリシャのドレープのある服が好きで。
――コスチュームにひかれた部分は大きかったんですね。『金の国 水の国』作中では、美人のお姉さま方はビアズリー[注1]やアーサー・ラッカム[注2]の絵本に出てきそうだなと思いました。
岩本 ラッカムはすごく好きです。同時代の挿絵画家ではエドマンド・デュラック[注3]も。
――衣装だけでなく、インテリアなども細部までこだわりを感じます。テーブルを使わずに食事するシーンで、そういえば『アラビアン・ナイト[注4]』でこういう絵を見たかもと思ったり。
岩本 そうですね。架空の国なので、いろんな文化が混ざってますけど。でも、だからといってあまり文化背景がごちゃ混ぜにならないようには気をつけました。資料はずいぶん集めましたね。金の国のほうは、イラン、トルコなどの西アジアやエジプト。水の国のほうは中国やモンゴル、チベット、ネパールあたりのイメージをミックスした感じです。
担当 岩本先生の仕事場に行くと資料の膨大さに驚きますよ。壁には一面に写真がびっしり貼ってあって。
岩本 貼らないとなくしちゃうんですよ。オスマントルコ帝国の時代を検索して、気に入ったものを片っ端からプリントアウトしておくんです。本を集めるのは限界がありますからネットはありがたいですね。登場人物の名前をつけるときにも役立ちました。
軽いノリで楽しめる気楽さが“岩本ファンタジー”の魅力
――固有名詞のネーミングは出典のある言葉なんですか?
岩本 たとえばルクマンはアラビア語で「賢い」という意味なんですが。いろんな国の言語から雰囲気のあうものをランダムに拾っています。「モンゴル」「人名」とかで検索したりして……固有名詞は大事ですから、よく聞くような名前にしたくなかったんです。
担当 岩本先生のすごいところは、そこまでこだわっているのに国名を「A国」「B国」とするところですね(笑)。
岩本 あ、それは……当初、読み切りにするはずだったので、これでいいかなと(笑)。
――そのザックリ感もまた岩本先生らしい? ファンタジーだけどいい意味で重厚じゃないので、ラクに読めるんですよ。冒頭からしておちゃめでノリが軽いですし(笑)。
岩本 長期連載の後なので。肩の力を抜いてやりたいなというところもあったし。まあ国同士とはいえ、ケンカの理由ってこんなもんですよね、と思ってはいます。
――突然「動く道」「動く箱」といった現代的な装置が出てきて、「昔むかしの物語」の常識にとらわれないユーモラスな感じも心地いい。
岩本 そのへんはもう、いきあたりばったりです。
――調べものが苦にならないのは、やはり学生時代の素地があるからなんでしょうか?
岩本 レポートを書くのに必要でしたから、自然と好きになりましたね。そういえば、当時、先生に勧められた本を今読んでいるんですが、めちゃくちゃおもしろいんですよ。阿部謹也さんの『中世の星の下に』という本。民俗学の領域で、中世ヨーロッパの庶民の文化について書かれているんですが、石を土に埋めると石が大きくなると信じられていたとか……。
――種を植えると木が育つ、みたいなイメージなんですかね?
岩本 昔の人はそう思ってたみたいですよ。即マンガのアイデアになりそうなエピソードがいっぱいなんです。
取材・構成:粟生こずえ
岩本ナオ先生の貴重なインタビュー、今回はここまで! オンナ編第1位に輝いた『金の国 水の国』の、貴重な制作裏話が聞けちゃいましたね♪
まだまだ岩本ナオ先生のインタビューが見たいという方に朗報! 本誌では、岩本先生の貴重なインタビューがたっぷり8Pも掲載されている『このマンガがすごい!2017』が、現在好評発売中です! WEBでは出せない衝撃のエピソードや、岩本先生本人から語られる自身のルーツ……などなど載っていますよ! 気になる方は下記をクリック!
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\次回予告/
『このマンガがすごい!2017』オトコ編第1位『中間管理録トネガワ』のインタビュー(ディレクターズカット版)をアップ中!
さらに、岩本先生のインタビュー第2弾もアップします!! 新連載『マロニエ王国の七人の騎士』の誕生秘話や、岩本先生が最近気になっているマンガまで、第2弾も見逃せない情報盛りだくさん!
公開は年明けの1月6日予定なのでこちらもチェックしてください!
- 注1 ビアズリー 正式名、オーブリー・ヴィンセント・ビアズリー。ヴィクトリア朝の世紀末美術を代表するイギリスのイラストレーター。詩人、小説家としても活躍。1890年代、繊細かつ鋭い白黒のペン画が話題を呼ぶ。ビアズリーのイラストで飾られたオスカー・ワイルドの戯曲『サロメ』英訳版など有名。
- 注2 アーサー・ラッカム 20世紀初頭に活躍したイギリスの挿絵画家。『グリム童話集』『ガリバー旅行記』『不思議の国のアリス』など、児童向けのメルヘンやファンタジーの挿絵が有名。日まで多くのファンタジー画家に影響をあたえている。
- 注3 エドマンド・デュラック 20世紀の第1四半期頃、「挿絵の黄金時代」とよばれる時代にイギリスで活動したフランス出身の挿絵画家。エキゾティシズムあふれる 『アラビアン・ナイト』をはじめ『眠り姫』『アンデルセン童話集』などの挿絵が有名。
- 注4 アラビアン・ナイト 別名『千夜一夜物語』。八世紀頃に中世ペルシャ語からアラビア語に訳された、インド説話の影響の強い一大説話集。ある王が妻の不貞を見て女性不信になり、毎日若い妻をめとっては一晩過ごすと殺すようになってしまった。娘・シェーラザードは人々の命を救うため、この王のもとに嫁ぎ、1001夜かかって王に次々と物語を話してきかせる……という物語。「アリ・ババ」「アラジン」「シンドバッド」などが有名。