複雑化する現代。
この情報化社会では、日々さまざまなニュースが飛び交っています。だけど、ニュースを見聞きするだけでは、いまいちピンとこなかったりすることも……。
そんなときはマンガを読もう! マンガを読めば、世相が見えてくる!? マンガから時代を読み解くカギを見つけ出そう! それが本企画、週刊「このマンガ」B級ニュースです。
今回は、「あの国民的アニメ、存続の危機か!?」について。
『週刊朝日増刊 サザエさん2017』
長谷川町子 朝日新聞出版 ¥370+税
(2016年12月31日発売)
家電メーカーの大手・東芝が米原子力発電事業をめぐる7125億円もの巨額損失を計上し、深刻な債務超過におちいっている。
そこでにわかに注目を集めたのが、国民的アニメ『サザエさん』だ。
なにしろ『サザエさん』といえば、1969年の放映開始以来、東芝が番組スポンサーを続けてきた。財政再建が急務の東芝がこれまでどおりスポンサーを続けられるのかどうか不安視されたが、4月以降も当面はスポンサードを継続するようだ。
だが、安心はできない。
たとえば東芝が外資系企業と資本提携を結び、海外から「コストカッター」が最高執行責任者(COO)として送りこまれてきた場合、磯野家の命運は風前の灯火である。
しかし、ほかの企業からすれば、これはチャンスかもしれない。
『サザエさん』の番組スポンサーになれば、国民のだれもが知っている一家の家電を自社製品に一新できるのだッ!
なんというプロダクトプレイスメントッ!
そりゃあブラッド・ピットもゾンビを倒したあとにペプシコーラを飲むってもンだ!
そこで今回は、テレビ番組のスポンサーになりそうな家電メーカーを、マンガの世界から探してみよう。
あくまでフィクションの世界の家電メーカーですからね。
『社長 島耕作』 第1巻
弘兼憲史 講談社 ¥543+税
(2008年10月23日発売)
マンガ世界の家電メーカーといえば、もちろん『島耕作』シリーズ(弘兼憲史)に出てくる株式会社TECOT(テコット)が有名だ。
島耕作が入社した当初は初芝電器産業(創業者は吉原初太郎)という名称だったが、五洋電機と経営統合して初芝五洋ホールディングスとなり、現在はTECOTのブランド名を使用している。
国内のソラー電機や東立電機、韓国のソムサン、中国の出発集団らと世界市場で競うグローバル企業である。
島耕作はTECOTの社長だったが、2期連続で大幅の赤字を計上して社長を辞任。現在はTECOTの会長として財界人たちと交流したり、世界各地を視察に訪れたりしている。
TECOTはマンガ世界では家電のトップブランドだが、現在はあまり業績はよくないようで、ミャンマー再進出にご執心の様子。
アニメの番組提供を持ちかけても、会長の「It’s none of my business.(意訳:あっしには関わりのねぇことでござんす)」の鶴の一声であしらわれてしまいそうだ。
『新装版 銀と金』 第8巻
福本伸行 双葉社 ¥630+税
(2015年1月28日発売)
現在、テレビ東京系列で実写ドラマが絶賛放映中の『銀と金』(福本伸行)の原作にも、国内有数の家電メーカーが登場する。それが「カムイ」だ。原作では誠京麻雀、政界再編のあと、主人公のひとり・森田鉄雄が神威家の家長・神威秀峰氏の依頼を受けることになる。
家電メーカー「カムイ」は、神威家のグループ企業のひとつであり、日本で三指に入る家電メーカーだ。グループの総帥・神威秀峰氏の三男である勝幸氏が社長を務めている。
カムイグループは反社会勢力との結びつきも強く、本拠地のG県は実質的にカムイが牛耳っている。そんなカムイの繁栄の象徴ともいえるのが、G県に建設中のホテル「スカイパレス神威」。
オープンを前に、このホテルで惨劇が繰り広げられるのであった。
企業としては優秀なようだが、ここは神威家の家長をめぐるゴタゴタで、やはり番組スポンサーどころではない。
『新装版 課長バカ一代』 第1巻
野中英次 講談社 ¥524+税
(2002年11月11日発売)
そして『課長バカ一代』で主人公・八神和彦が勤める松芝電機も有力企業のひとつだ。
作者は『魁!! クロマティ高校』でも有名な野中英次。『クロ高』からのスピンオフ・キャラも登場し、ナンセンス・ギャグを繰り広げる。
この松芝電機は世界でも有数の一流家電メーカーではあるが、ブランドを代表するようなヒット商品には恵まれていない。
松平芝之助が大学卒業後に創設し、一代で世界規模のメーカーにまで成長したものの、“課長バカ”こと八神和彦や、焼き肉大好きな林田一郎(商品開発部)のようなボンクラ社員をたくさん雇用していることから、あまり企業競争力が高いようには思えない。
なにしろ八神の肩書きは「商品開発部企画課課長補佐代理心得」。なにをやっているかよくわからない肩書きが横行している会社は、ひと言でいってヤバイ。
いや、このゆるさこそ、余裕のある会社の証拠かもしれない。社長もヒマそうだし。
番組スポンサーを持ちかけたら、案外こういう会社のほうがトントン拍子で話が進みそうだ。
ただ、ここの社員とのやりとりでは、まとまるものもまとまらなそうだが……。
というわけで、マンガの世界には数々の家電メーカーが存在するが、どれもちょっと頼りない。
まだまだ東芝が担うべき責務は大きいようだ。
4月以降も引き続き、磯野家とフグ田家と提供CMの行く末を見守っていきたい。
<文・加山竜司>
『このマンガがすごい!』本誌や当サイトでの漫画家インタビュー(オトコ編)を担当しています。
Twitter:@1976Kayama