欧米化の波に対抗する姿に『宇宙大戦争マーチ』が流れる!!
河鍋暁斎は天保2(1831)年生まれで、いわば幕末の絵師。
明治時代に入って日本は「文明開化」をスローガンに過激なまでの欧化政策をとっている。
まさに「欧米か!!」である。
日本の伝統たる絵画ひいてはマンガの文化が消えてしまうかもしれない風潮に、暁斎はこんな警鐘を鳴らした。
河鍋暁斎 《名鏡倭魂 新板》
明治7(1874)年 大判錦絵三枚続
イスラエル・ゴールドマン コレクション Israel Goldman Collection, London Photo :立命館大学アート・リサーチセンター
名匠・栗原信秀が鍛えた鏡の光が悪鬼羅刹を退散させる極彩色のいわばカラーマンガで、信秀の力強いアクションと逃げ散じる妖怪たちのダイナミックな逃げっぷりが印象深い。
神鏡から放射状に展開する光は、『シン・ゴジラ』の全方位ビーム攻撃そのものではないか!
どうやらこのVFX(視覚効果)こそが、まさに『シン・ゴジラ』にパク……いや、オマージュされている!
さらに、退散する妖怪は西洋文化のメタファー(比喩)で、この絵は痛烈なパロディになっているというのだが、これもまた“ニッポンの怪獣”ゴジラの復権を暗喩しているかのようではないか。
メディアも大注目!? メディアミックス展開もぞくぞく始まる!
さて、河鍋暁斎の輝かしい活躍を急ぎ足でお伝えしてきたが、これほどの逸材をほおっておくほどなまぬるくないのが、マンガ・アニメ界である。
早くも暁斎の絵柄あるいは暁斎そのものを作品に取り入れたコンテンツが登場したようだ。
まずはこの絵をごらんいただきたい。
河鍋暁斎 《地獄太夫と一休》
明治4~22(1871~1889)年 絹本着彩、金泥
イスラエル・ゴールドマン コレクション Israel Goldman Collection, London Photo :立命館大学アート・リサーチセンター
室町時代にいたという、卑しからぬ身分の娘が山賊にさらわれ遊女に売られた「地獄太夫」という女性である。彼女は、師匠の国芳もモチーフにしたが、暁際はしばしば彼女を描いている。
前世の行いがこのような現世を導いたため、あえてその名に「地獄」を冠した女性がもうひとり存在する。
それが「地獄少女」である。
『地獄少女』 第1巻
地獄少女プロジェクト(作) 永遠幸(画) 講談社 ¥400+税
本作は、法で裁けぬ悪事を受けた者や晴らせぬ怨みを持つ者が午前0時にサイト「地獄通信」にアクセスすることで地獄少女・閻魔あいが出現、憎い相手を地獄に送るミステリーホラー。
これまで3度のアニメ化がなされ、今夏より新作も放送開始という超人気作だが、全シリーズのオープニングテーマに暁斎の絵が使われている。
「地獄太夫がいこつの遊戯(たはむれ)ヲゆめに見る図」や「侠客日本魂迷府於大猛勇顕(きょうかくのやまとだましいめいふにおいてだいもうゆうをあらわす」などがモンタージュ的に使われているので注目していただきたい。
少女マンガ誌「なかよし」で連載されたコミカライズ版には直接関係はないが、女性向けホラーマンガとしてこちらも人気作なので、この機会にぜひ。
さらに、暁斎そのものが作品に登場するケースもある。
『天保異聞 妖奇士』 第1巻
會川昇、BONES(作) 蜷川ヤエコ(画) スクウェア・エニックス ¥505+税
本作は天保14年の江戸。「妖夷」という異界からの魔獣にたちむかう組織「蛮社改所」(ばんしゃあらためしょ)に所属する戦士「奇士」(あやし)たちの活躍を描く。
じつはこちらもアニメ化されており、これに少年時代の暁斎が登場する。
作中で彼は本名の「甲斐周三郎(かい・しゅうざぶろう)」名義で活動しており時期的には国芳のもとから狩野派の前村洞和・洞白のアシスタントになった頃と思われる。
師匠の洞和から「画鬼」のニックネームで呼ばれていた暁斎の若き日が(フィクションとはいえ)垣間見える作品だ。
さて、こうして紹介してきた河鍋暁斎の才能……なのだが、ここまで言葉をつくしてもまったく伝わっていない感じがする!
こうなったら、実際に河鍋暁斎の絵に触れて、観るしかないっ!!
そんな思いをいだいた皆さんに朗報!
ただ今東京・渋谷では“全編これ暁斎!!”というすばらしい特別展示が開催中なのだ。(ここからはエイプリルフール記事ではなく、マジ!)
「ゴールドマン コレクション これぞ暁斎! 世界が認めたその画力」は今年4月16日(日曜日)までBunkamura ザ・ミュージアムで開催されている。
間もなく終了なので、河鍋暁斎に興味を持った人は急いで行くべし!!
<文・猫戸なまず>
河鍋暁斎私設ファンサイト「キョーサイの青汁」代表。「春★画太郎」、「ズゴック太夫」など複数のペンネームを使い分けながらマンガレビューをものす。現在のペンネームの由来は河鍋暁斎がしばしば風刺画のモチーフにしている「猫と鯰」から。私的ファンブログ:「洋装の骸骨ってそれなんてブル●ク?」