ただいえるのは、こんな状況でも彼女が聡明で、天真爛漫であるということ。対して、依頼人として、あるいは殺しのターゲットとして彼女に出会うことになるのは、当然のことながら世のどん底に生きている人物がほとんどである。
そこにはどうしようもないほどの温度差があるはずなのだが、ケイの聡明さはおそらくは単に楽天的だからという訳ではなく、極限的な経験の向こう側であることを思わせるがゆえに、登場人物は不思議な連帯感に包まれていく。「普通であること」を捨てざるをえなかった底辺の人物が、ケイの持つ「普通の願望」によってある種の救済をえるという構図は、読者にとっても希望となりえることだろう。
もちろん、救いようもない悪党には、残酷かつ無慈悲な死が訪れるのはいうまでもないのだが……。
物語はまだ始まったばかりであり、ケイや仕事仲間の過去や心情、そして幸か不幸かケイに惹かれてしまった普通の専門学校生・渡辺くんの運命など、気になることは山の如し。
まぁ、正直なところ渡辺くんは死のうが生きようがどうでもいい(ヒドい!)のだが、心から幸せを祈らずにはいられないヒロインと出逢えたことは極上の喜びである。
この混沌とした世界で、小さな希望の行く末がどこになるのか最後まで見届けたい。
<文・大黒秀一>
主に「東映ヒーローMAX」などで特撮・エンタメ周辺記事を執筆中。過剰で過激な作風を好み、「大人の鑑賞に耐えうる」という言葉と観点を何よりも憎む。