日夜、注目のマンガを紹介する「このマンガがすごい!WEB」。そんななかで、いつものレビューと違う特別なレビューが……!!!?
ということで、読者の皆さんから大変な注目を集めている連載企画、中島かずきの「このマンガもすごい!」!
脚本家・小説家・漫画原作者として知られる、あの中島かずきさんによる、「このマンガがすごい!WEB」だからこそ可能な、マンガコラム企画の連載!
中島かずきさんといえば、劇団☆新感線の座付き作家としての活動を筆頭に、アニメ『天元突破グレンラガン』『キルラキル』のシリーズ構成や、TVシリーズ『仮面ライダーフォーゼ』のメイン脚本など、マルチな活躍を続ける当代随一のクリエイター! 本WEBサイトの読者の皆さんも、くり返し観た中島さんの作品は多いのでは!?
そんな中島さんが注目する、新旧マンガ作品について、アレやコレやと語り尽くす本企画! その作品、そして、クリエイターならではの視線とは……!?
今回「すごい!」のは……この作品だ!!
『樹魔・伝説』(Kindle版)
水樹和佳子 クリーク・アンド・リバー社 ¥600+税
(Kindle Unlimited利用時 ¥0)
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第4回は、前回のレビューに引き続き、少女マンガにフィーチャー!
水樹和佳子先生の『樹魔・伝説』を取り上げます!!
SF要素がふんだんに取り入れられた少女マンガである本作に、中島さんは大きな衝撃を覚えたらしく……?
今年の日本SF大賞を受賞したことで気になっていた白井弓子の『WOMBS』の第1巻を読んだ。
異星の植民地で続く人類間の内紛に際し、異星の植物の体組織を子宮に入れることでワープが可能になるため、女性しかなれない“転送兵”という設定がおもしろい。
術後の体調の個人差、軍隊の訓練風景などの描写を丁寧に描くことで、戦争物としてのリアルさも感じられ、ここからこちらも予期しない物語が展開されそうで期待している。
ただ、まだ第1巻しか読んでいない段階で、完結しているこの作品を語るのは失礼だろう。今はまだ上記のような第一印象を述べるにとどめておく。
今回取り上げるのは、水樹和佳子の『樹魔・伝説』だ。
『WOMBS』を読みながら、僕は、なぜかこの作品を思い出していた。1979年から1980年にかけて、『ぶ~け』に発表された。81年に、第12回星雲賞コミック部門を受賞している。星雲賞は日本SF大会でのファン投票で決められる賞だから、こちらもSFファンが認めた作品ということになる。
当時は『樹魔』と『伝説』という中編連作二作品でコミックスになっていたが、現在はそのほかのSF短編も加えたデジタル版が刊行されている。
『WOMBS』に比べれば絵のタッチや語り口ははるかに少女マンガ的なのだが、女性作家が描くSF、しかも重要なモチーフに異星の植物との共生関係があるということで連想したのだろうか。
水樹和佳子、というよりは、水樹和佳といったほうが僕にはしっくりくる。発表当時のペンネームだ。『樹魔』とそれに続く『伝説』で強く頭にすりこまれた名前だった。
特に『伝説』のなかで語られる、「人類は地球を離れると精神が崩壊する。宇宙進出はできない種なのだ」という一節を読んだ時のショックは忘れられない。
当時、SFの一番のおもしろさは既成概念の破壊だと思っていた。常識と思われている通念をひっくり返すロジック。それまで信じていた世界が一瞬にしてひっくり返る瞬間。その快感を求めてSFを読んでいたところがある。
70年代末期か80年代初頭、78年の『スターウォーズ』公開に代表されるようにSFがブームだった。
宇宙を題材にした映像作品も多かったその時期に「人類は地球に縛られた種である」というロジックは、目から鱗だった。今でも時々思い出すことがある。それくらい自分には魅力的なロジックだったのだ。このくらいシンプルで魅力的なロジックを自分も書きたいなとよく思う。
まあ、僕が書くと「人は人、服は服だ」という、そこだけ切り取られると「なんでそんな当たり前のことをそんな大声で言うの」というようにねじくれたセリフになったりするのだけど、それは作風の違いということで。
SFの華ともいえる、作品内の魅力的なロジック。
中島さんの作品にも影響を与えた(ちなみに「人は人、服は服だ」は『キルラキル』のあのセリフですよね!)『樹魔』・『伝説』はもちろん、温故知新ということで、同時代のマンガにSFの名作を探すのもおもしろいかもしれません。
クリエイター・中島さんとマンガの関係を感じさせる、<第4回>『樹魔・伝説』でした!
前回、今回と往年の少女マンガにまつわるレビューだった本連載、次回はいったい、どのような作品が登場するのでしょうか? 乞うご期待!!