公の場とプライベートの場を完全に分断し、心から好きなコスプレに心血を注ぐ渚。周囲にコスプレ趣味を隠すのは、そのよさを理解できる人とだけ共有すればいいと思っているからだ。……という説明の筋は通っているけれど、心のなかでは完全に割りきれていないのが痛々しい。
渚を苦しめるのは「共有できない人は仕方がない」ではなく「共有できない人に見下されたくない」という思考にほかならない。
20年、30年前に比べてあきらかに「オタク」のすそ野は広がっているし、昨今「オタク」という言葉はずいぶんライトに使われるようになった。しかし、オタク趣味が本当に市民権を得たとは言いきれないのではないか。
たとえば、犯罪の容疑者がつかまったときに、ことさら“部屋がアニメのポスターでいっぱいだった”などと一部分を取り上げて報道されることに違和感を覚える人は多いだろう。しかし、このようにマンガやアニメ周辺のオタクに対する偏見の目があることは否めない。
それが批判や蔑視の対象になるのは、「現実逃避」というキーワードと結びつけられたときだ。
2次元の世界に“現実逃避”したとして……その問題点はどこにあるのだろう。この部分に切りこんだ本作は、自我との直面、そして自意識との闘いをタフに描く意欲作。
ヒリヒリするような心のうずきに苛まれながら、ヒロインが今後どのように自分を理解していくのか目が離せない。
『コンプレックス・エイジ』著者の佐久間結衣先生から、コメントをいただきました!
<文・粟生こずえ>
雑食系編集者&ライター。高円寺「円盤」にて読書推進トークイベント「四度の飯と本が好き」不定期開催中。
「ド少女文庫」