どちらもヒロインが大切な人の不可解な死に瀕し、謎に身を投じていく冒険譚。危険な道行きに美形の青年が現れ、手助けしてくれるのが唯一少女マンガらしい救いだが、この世ならざるものの影が出現し、黒い手を伸ばす恐怖シーンは何度読んでも背筋が凍る迫力に満ちている。
『ひばり鳴く朝』は、この2作とはまた違った怖さを感じる物語だ。事故により両親を失ったエリを引き取ったリード博士は、この赤ん坊を使って禁断の実験を試みる。それは、彼女を部屋に閉じこめていっさいしつけをせず、言葉も教えず、人間を“動物”のように育てたらどうなるかという非人道的なものだった……。
1973年に刊行されたコミックス『パンドラの秘密』(絶版)に収録されて以降、いずれの傑作選にも収録されなかった幻の作品に出会えて、とにかく満足のひと言だ。社会科学的な問題もはらんだ意欲作で、美内が20歳のときの作品とは恐れ入る。
巻頭には貴重なカラー原画ギャラリー。巻末には著者みずから収録作品について、当時を振り返っての裏話、ホラー系の物語を描く醍醐味などたっぷり語りおろした20,000字解説が収録されている。
夏の終わりに読みたい一冊。ただし怖がりの方は明るいうちにどうぞ。
<文・粟生こずえ>
雑食系編集者&ライター。高円寺「円盤」にて読書推進トークイベント「四度の飯と本が好き」不定期開催中。
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