『黒鷺死体宅配便』第20巻
山崎峰水(画) 大塚英志(作) KADOKAWA/角川書店 \580+税
(2014年10月31日発売)
もともとタイトルからして、ブラックな要素は満載だ。
大塚英志と山崎峰水による『黒鷺死体宅配便』は、望まないかたちで死を迎えた依頼人の声を聞き、その死体を届ける宅配業者の物語。
そのメンバーは、死体と対話ができる唐津、死体をダウジングで捜索できる沼田、死体の情報をハッキングできる佐々木、死体修復のエンバーミングができる槙野、そしてなぜか宇宙人と交信できる谷田で構成されている。
どこをついても、死体という言葉に行きつく本作。そもそもタイトルにも“死体”が入っていて、ネーミングからして“黒鷺”だ。
あわせて、死体描写や事件描写がグロテスクだという声も聞かれる。何もかもが凶々しく、おぞましくて恐ろしい。
しかし『黒鷺死体宅配便』の魅力は、間違いなくそのおかしみにある。ブラックだけれどもおかしいという言いかたもできるだろう。随所にコミカルさもある。ただ、ブラックだからこそ本作はおかしいのだ。
本作では、都市伝説やオカルトを基盤に、時代を反映した社会問題も題材として扱われる。
最新刊の20巻では、企業談合にウォーキングデッド、女装子に「水の記憶」、ホムンクルスに新型ウィルス感染といった事象が散りばめられ、事件に結びつく。
それがどんな物語なのかは読んでのお楽しみだが、いわゆるエスプリ──毒や皮肉や風刺が利いているのが『黒鷺死体宅配便』。死体を主題に人間の暗部や恥部で笑わせるのだから、それこそブラックだ。
ブラックなユーモアでウィットに富んでいて、それだけにクールでドライ。世界観や空気感は、海外ドラマに通じるかもしれない。オカルトで唸らせ、社会問題で笑わせるという点でも、本作は大人こそ楽しめる作品なのだ。
各話タイトルもふるっている。毎巻、ひとりのアーティストを定めて、その楽曲から各話タイトルはとられているが、20巻には『Lucky Chanceをもう一度』『元気なブロークン・ハート』といったタイトルが並ぶ。
ここでニヤッとした人は、間違いなく80'S育ちだろう。
各話タイトルがブラックで楽しめるという意見については、読み手の心がブラックだからなのでは?と言う人もいるかもしれない。
ただ、笑いやネタの対象になっていて、それでも聴けば間違いなくグッときてしまうバンドを持ってくるとがったセンス……いや、『黒鷺死体宅配便』は間違いなくブラック認定だ。
<文・渡辺水央>
マンガ・映画・アニメライター。編集を務める映画誌「ぴあMovie Special 2014 Autumn」が9月17日に発売に。『るろうに剣心 京都大火編/伝説の最期編』パンフも手掛けています。