「あの話題になっているアニメの原作を僕達はじつは知らない。」略して「あのアニ」。
アニメ、映画、ときには舞台、ミュージカル、展覧会……などなど、マンガだけでなく、様々なエンタメ作品を取り上げていく「このマンガがすごい!WEB」の人気企画!
そう、これは「アニメを見ていると原作のマンガも読みたいような気もしてくるけれど、実際は手に取っていないアナタ」に贈る優しめのマンガガイドです。「このマンガがすごい!」ならではの視点で作品を紹介! そしてもちろん、原作マンガやあわせて読みたいおすすめマンガ作品を紹介します!
今回紹介するのは、『劇場版 響け!ユーフォニアム~届けたいメロディ~』
マイナー楽器の代名詞だったユーフォニアムの知名度が上がり、中学の吹奏楽部で人気楽器になったという。そのきっかけがアニメ『響け!ユーフォニアム』と聞いて、マジかよと耳を疑った。
信頼のブランド・京アニこと京都アニメーション制作によるアニメのクオリティは、本作でもすばらしい。納期に追われるテレビアニメにありがちな妥協がどこにもなく、吹奏楽部の演奏(初期の下手な演奏から、上達した演奏まで音響で再現)や練習の厳しさについても描写に手加減ゼロ。
だから、「憧れる」人たちに驚いたのだ。
舞台は京都府立北宇治高校、もと吹奏楽部の強豪校。
小学5年生のときから吹奏楽をやっている黄前久美子は友だちの誘いを断りきれずに吹奏楽部に入部。そこには、同じ北中にいた高坂麗奈の姿もあった。京都府大会で金賞を獲得したものの、関西大会に出場できない「ダメ金」となったかつての仲間に……。
部活モノの分かれ目は「全国大会を目指すか、ゆるゆるとした日常を過ごすか」ということ。
前者を選ぶと、とたんに厳しい作風になる。その地方にも、同じ地域にも、その上の全国にも、たったひとつのトップを争うライバルがいるいばらの道だ。
北宇治の部員たちは、初めはやる気がない。でも、全国大会への道を選ぶ。
新任の音楽教師で部活の顧問になった滝先生が生徒たちに挙手させて、多数決で選ばせたからだ。ほとんどの人は「全国を目指す」に挙手したものの、とりあえず目指してみるかな……というテンションの低さ。
ヒロインの黄前久美子も、もともと乗り気じゃなかった。ユーフォニアムを7年も練習してきて、吹奏楽の経歴や腕前を隠して、別の楽器をやろうとしていたぐらいだ。
久美子はちょっと例を見ない、変わった主人公だ。自分から周囲を引っ張ろうとする積極性はないし、面倒ごとも避けようとする。過去にわだかまりのあった(と本人は思ってる)麗奈に謝るべきか、でも謝りたくない……と堂々めぐりしていた、身近にいそうなキャラクターだ。
ファンの間では久美子のことを「失言系ヒロイン」という声もある。
ダメ金で終わった中学の大会で悔し涙を流す麗奈に対して、「本気で全国に行けると思ってたの?」といったように、つい本音をこぼしてしまうからだ。
けど、北中にその実力がなかったのはたしかな事実。だれだって現実から目を背けたい。
でも、現実と向きあってこそ次の一歩が踏み出せる。そんな前向きな「うっかり」が、久美子を物語の中心にしている。さらに、いったあとに激しく後悔することを含めて主人公だ。
そんなわけで、TVアニメ版は京アニの底力が描くかわいらしい少女たち(少年もいる)が打ち上げ花火を前に手を恋人つなぎしたりする光景にほっこりしながらも、同じぐらい力を入れた部活のリアルに胃がキリキリと痛んだ。
吹奏楽はそれぞれの奏者が力をあわせるチーム戦であり、楽器パートごとに部員同士が腕と根性を競いあう個人戦でもある。どれだけがんばろうが、下手ならメンバーから外される。
「努力が報われる」一方で「志半ばにあきらめる」ことが等しく描かれたのは、「スポ根アニメ」としても稀有かもしれない。
自分が大好きな先輩に、どうしてもトランペットのソロパートを担当してもらいたいと後輩が食い下がった結果、部員全員の前で再オーディション。
その実力差がさらけ出されてしまう……という青春の残酷さと美しさは、劇場版の第一作「『劇場版 響け!ユーフォニアム〜北宇治高校吹奏楽部へようこそ〜』にまとめられた。
さて、この9月末に公開を控える『劇場版 響け!ユーフォニアム〜届けたいメロディ〜』は、2016年10月〜12月に放映されたテレビアニメ第2期『響け!ユーフォニアム2』を久美子とユーフォニアムの先輩・田中あすかのストーリーを中心に再構成したもの。
あすかは美人でカリスマ性があってユーフォがうまくて、みんなから頼りにされる「特別」な存在。
だが、時おりのぞく氷のような表情、「心の底からどうでもいい」と突き放す態度。
そうして大人ぶる裏にはさらに別の素顔が……。つい本音を口走る久美子とは好対照の、もうひとりの主人公だ。
第2期は練習を積み大舞台を経たあとで、北宇治の部員たちの士気も高い。それでも吹奏楽部が去年から引きずるしこり、久美子の家庭事情、完全無欠に見えたあすかの身に衝撃的なことが……と次々と事件が起きる。ほのぼのした文化祭エピソードの後半に、楽しさが吹き飛ぶシリアス展開が来るスゴい構成もあった。
ただでさえ濃密なTVシリーズの物語を、劇場版のかぎられた時間にどう収めるのか。先輩から後輩へ、あすかから久美子へと受け継がれていく想いが、やがて全国の吹奏楽部へと広がっていく未来を心待ちにしたい。
劇場版『響け!ユーフォニアム~届けたいメロディ~』を観たあとに……
今回、劇場版『響け!ユーフォニアム~届けたいメロディ~』をさらに楽しみたいアナタに、読んでほしいマンガ作品を紹介しちゃいますよっ。
『このマンガがすごい! Comics 響け! ユーフォニアム 北宇治高校吹奏楽部、最大の危機』 武田綾乃(作) はみ(画) アサダニッキ(キャラクター原案)
『このマンガがすごい! Comics 響け! ユーフォニアム 北宇治高校吹奏楽部、最大の危機』 第1巻
武田綾乃(作) はみ(画) アサダニッキ(キャラクター原案)
宝島社 ¥690+税 (2017年7月20日発売)
『響け! ユーフォニアム 北宇治高校吹奏楽部のいちばん熱い夏』に続く、『北宇治高校吹奏楽部、最大の危機』のコミカライズ化。
関西大会を突破し、夢の舞台である全国大会に向けて、練習にも熱が入る部員たちに、暗雲がたちこめる―――。
それは、部の要であるユーフォニアム担当の3年生・田中あすかが突如、「部活を辞めたい」といい出したのだ!
主人公・久美子をはじめ、部員たちも動揺するなか、追い打ちをかけるように久美子の姉・麻美子の大学中退など、彼女を中心にさまざまな危機が迫ってきて……。
第3シリーズでは、久美子がよりいっそう部全体のことや、部員たちのことを他人事として捉えずに、きちんと向きあっていることが如実にわかる。特に、これまで感情をあらわにしてこなかった彼女が、あすかに思いのたけを伝えるシーンは、第1期からに久美子を知る者からすれば、技術だけでなく、精神的にも成長しているな……としみじみしてしまった。
はたして彼女たちは、全国大会で音色を響かせることができるのか……?
この結末は、ぜひコミックスでたしかめてほしい。
『このマンガがすごい! Comics 響け! ユーフォニアム 北宇治高校吹奏楽部、最大の危機』のほかに、このマンガもおすすめ!
『BLUE GIANT』 第1巻
『BLUE GIANT』 第1巻
石塚真一 小学館 ¥600+税
(2013年11月29日発売)
仙台に住む高校生・宮本大(みやもと・だい)は、ある日友人に連れられて訪れたライブハウスにて、ジャズの魅力に取りつかれる。「世界一のサックスプレーヤーになる」と豪語する大だが、実際は楽譜どころか、音程もわからないほどの初心者。しかし、雨が降ろうが雪が降ろうがおかまいなしに、正面からサックスと向きあい、ひたすら練習を重ねる。
そんななか、由井(ゆい)は、彼のなかにある才能を見出し、一流のサックスプレーヤーにすべく、育てあげていく。
大が仙台の広瀬川や東京の河原で孤独に練習するシーンや、ライブハウスでの演奏シーンは圧巻。
演奏で気持ちが高揚していくさまや、息遣い、滴る汗など、紙面から”ライブ感”が伝わってくる場面が多く、音楽に明るくない人でも充分に楽しめる作品だ。
<文・多根清史>
『オトナアニメ』(洋泉社)スーパーバイザー/フリーライター。著書に『ガンダムがわかれば世界がわかる』(宝島社)、『教養としてのゲーム史』(筑摩書房)、共著に『超クソゲー3』、『超ファミコン』(ともに太田出版)など。