「死ぬ死ぬ」と言い続けて、周囲が慣れた頃に本当に自殺してしまう人。仕事を探すフリをしてのらりくらりと過ごしている人。自立を急ぐがゆえに追いつめられてゆく人。生活保護費を酒やギャンブルにつぎ込んでるっぽい人……。
現場の生の声を生かした本作だからこその説得力だ。ひとくちに「受給者」といえど、そのスタンスも人間性も様々で、彼らに翻弄される天然ヒロインの姿もおもしろおかしく、ケースの列挙だけで充分エンタテインメントとして成立するところを、柏木はさらに各々の暮らしぶりを克明に描くことで、肉体を伴った生々しい生をあぶり出し、理想と現実、理性と感情のはざまで揺れ動き、変化してゆく微妙な心理を鮮やかに描いてみせる。
だからこそ「110ケースあろうが…………国民の血税だろうが…………ダメだ。それ…言っちゃあ、何か大切なものを失う…」といったセリフが、あたかも肉声のようにズシリと耳に残るのだ。
そんな登場人物らの「わりきれなさ」が、今後どのような展開を見せてゆくのか?
ダイナミックなストーリーテリングが魅力の柏木作品だけに、目が離せない!
『健康で文化的な最低限度の生活』著者の柏木ハルコ先生から、コメントをいただきました!
<文・井口啓子>
ライター。月刊「ミーツリージョナル」(京阪神エルマガジン社)にて「おんな漫遊記」連載中。「音楽マンガガイドブック」(DU BOOKS)寄稿、リトルマガジン「上村一夫 愛の世界」編集発行。
Twitter:@superpop69