リンちゃんは料理がヘタ。正確には「子どもっぽい味覚」のために甘いものが好きで、シラス丼まで甘ったるい。
子どもが定食屋をやりくりするマンガでの「料理の腕は大人顔負け」という定番の設定を捨てていて、逆にすごい。
しかも、お店は貸家で、家賃も払わないといけない。どうやって食っていくんだ……。
そこは周囲の優しい大人たちとのハートフルな交流だ。おいしかったよといいながら料理をほとんど残し、でも同情してコーヒーだけを飲みにくる。近所の食料品店も、店の人がリンちゃんから代金をもらうのを忘れるぐらい。
ああ、みんないい人たちだなあ。そんな感動ドラマの片隅で、「健気さを武器に生きていく小学生」のたくましさが見え隠れするおもしろさ。料理がヘタ、だから客も日に2〜3人しか来ない。厳しいにもほどがあるシバリのなかで明日を目指す姿は、無人島サバイバル番組の味わいが少しある。
その臨場感を高める仕組みが、エピソードの間に挟まれる「鈴音食堂の収支計算書」だ。お店の売り上げ、使ったお金、もうけ、現在の全財産……。つまり「全財産ゼロ」にもなりうるということ!
大人になってみれば「全財産11500円」は目の前まっくらになるが、「大家さんと色々お話できて楽しかったな」って充実できる小学生、つよい。
明日をもしれぬ日々をノーフューチャーに歩んでいく本作、海外ドラマ『ブレイキング・バッド』が好きな人にはオススメかもしれません(筆者の個人的見解です)。
<文・多根清史>
『オトナアニメ』(洋泉社)スーパーバイザー/フリーライター。著書に『ガンダムがわかれば世界がわかる』(宝島社)、『教養としてのゲーム史』(筑摩書房)、共著に『超クソゲー3』、『超ファミコン』(ともに太田出版)など。