「あの話題になっているアニメの原作を僕達はじつは知らない。」略して「あのアニ」。
アニメ、映画、ときには舞台、ミュージカル、展覧会……などなど、マンガだけでなく、様々なエンタメ作品を取り上げていく「このマンガがすごい!WEB」の人気企画!
そう、これは「アニメを見ていると原作のマンガも読みたいような気もしてくるけれど、実際は手に取っていないアナタ」に贈る優しめのマンガガイドです。「このマンガがすごい!」ならではの視点で作品を紹介! そしてもちろん、原作マンガやあわせて読みたいおすすめマンガ作品を紹介します!
今回紹介するのは、『ひとり暮らしの小学生』
1980年代の江の島を舞台に、ひとりで食堂を切り盛りする小学生・リンの日常を描いた『ひとり暮らしの小学生』。「泣ける」作品としてkindleストア4コマまんが部門で1位になった本作が、タテアニメでアニメ化!!
『このマンガがすごい! comics ひとり暮らしの小学生 江の島のあしあと』
松下幸市朗 宝島社 ¥700+税 (2017年10月7日発売)
「パパ、ママ、昨日はお客さん、3組入ったよ」――PVで田中美海氏演じる、そこにいるかのようなリンの声を聞いた瞬間、自分は落涙を抑えきれなかった。ああリンだ、リンの声って、田中美海氏と同じだったんだね……。
タテ型アニメを観るアニメ配信アプリ、「タテアニメ」で配信中の『ひとり暮らしの小学生』は、松下幸市朗氏による同名の原作マンガを、1話が約3分のショートアニメとして映像化したものだ。
時は1980年代、両親を交通事故で亡くした9歳の少女・鈴音リンは、ひとりで鈴音食堂を営みながら江の島で暮らしている。
しばしば「泣ける!」という評価がなされる本作だが、アニメもマンガも過剰な演出はない。だが一例としてアニメ版第1話、のちに常連となるおにいさんがリンの料理に辟易しながら、「また今度、行ってやろうかな」とひとりごちるカットにかぶさるエンディング曲に象徴されるように、じつにさりげなく、なんのあざとさもなく、ただ人物の心情をチラ見せするだけで泣かせてくれるのである。アニメ化以前にマンガを読んでいた自分が、最初にホロッとなったのもこのシーンだ。
むしろ本作の魅力は、「泣き」の要素よりもリンをとりまくクラスメイトと大人たちによる、情味と楽しさに満ちたかけあいにあると思う。しばしばリンにちょっかいを出してくる同じクラスの関口亮(演:森嶋秀太)、お金持ちのお嬢様・金見美恵子(演:三森すずこ)のほか、先述した常連のおにいさん(演:高橋伸也)、常連のおねえさん(演:伏見はる香)、ミュージシャン志望のおじさん・遠藤次郎(演:坂本頼光)ら、人間性善説を擬人化したようないい人たちとの笑いあり涙ありの日常は、老若男女問わず楽しめる。いつまでも、この暖かく優しい世界に浸っていたい。そんな気分になるのだ。
そして原作をすでに読んでいるファンには、貧しさにめげず日々を楽しく生きている、動くリンを観ているだけで心が満たされるだろう。
アニメならではの「アホ毛」が動く演出は最高だし、辛いカレーに「失敗だ!」という小学生の味覚(味付けはチョコレートや生クリームが主体)も、(店の経営を心配しつつ)微笑ましくなる。マンガでは欄外で描かれるオチはアニメだとエンディングでさらりと描かれるので、じつは最後まで目が離せない。4話にいたっては、マンガと違うオチを用意しているので油断ならない。
そうそう、主題歌「ひとり暮らしの小学生」を笠原弘子氏が唄うのも、90年代に青春を過ごしたアニメ、マンガファンには涙ものだろう。
配信スケジュールは、2017年12月12日の第10話「クリスマス」までが発表されている。タイトルどおりクリスマスを描くが、期待に違わぬ内容となるはずだ。約束された極上のクリスマスプレゼントを、今後の配信を観ながら楽しみに待とう。
『ひとり暮らしの小学生』を観たあとに……
今回、『ひとり暮らしの小学生』をさらに楽しみたいアナタに、読んでほしいマンガ作品を紹介しちゃいますよっ。
『このマンガがすごい! comics ひとり暮らしの小学生 江の島の夏』松下幸市朗
『このマンガがすごい! comics ひとり暮らしの小学生 江の島の夏』
松下幸市朗 宝島社 ¥700+税 (2016年5月25日発売)
アニメを観てからでも、アニメを観る前でもマンガ版『ひとり暮らしの小学生』はぜひとも読みたい。動いて音が出るアニメと違い、静止画での表現となるマンガの味わいもまた格別だ。私ごとで恐縮だが、自分は完結編となる第2巻を江ノ島の海岸で読んだ。感慨もひとしおなので、ぜひマネしていただきたい。原作マンガは全2巻にくわえ、10月7日には最新作『ひとり暮らしの小学生 江の島のあしあと 松下幸市朗短編集』も発売されたばかり。単行本のための描きおろしにくわえ、本作の原型といえる初期作品も収録、ほっこり笑ってほっこり泣ける松下ワールドが楽しめる。さらに『ひとり暮らしの中学生』も連載が開始されており、貧しくも前向きなリンのひとり暮らしはまだまだ続く。
『江の島ワイキキ食堂』岡井ハルコ
『江の島ワイキキ食堂』 第1巻
岡井ハルコ 少年画報社 ¥600+税 (2009年10月13日発売)
なお『ひとり暮らしの小学生』を読んだあとは、江ノ島を舞台とした『江の島ワイキキ食堂』を熱烈におすすめしておきたい。人の言葉を理解して、話すことができるネコ・オードリーと、彼女(メスネコだ)が飼われている江の島ワイキキ食堂の片瀬頼や、その恋人・浦島ヒカリらの日常を描くマンガだ。リンと違い頼の料理は絶品の評価も高いが、気まぐれに訪れる貧乏神(セミレギュラーだ)のおかげで時に客足はイマイチにもなる。日常のできごとだけでなく、時にSFや心霊めいたエピソードもあるなど、不思議な魅力にあふれたマンガなのだ。もちろん、ネコ好きは必読だ。
<文・松田孝宏>
フリー編集者兼ライター。最近は『はいからさんが通るの世界』(執筆)、『CGフルカラー! 日本陸海軍戦闘機大図鑑』(編集、執筆)などいずれも宝島社のムックに参加。好きな江ノ島の食堂は「いのうえ」。
Twitter:@matsu_am