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90年代思春期男子たちのバイブル、桂正和の『電影少女』がドラマ化っ!?【B級ニュース】

2017/11/08


複雑化する現代。
この情報化社会では、日々さまざまなニュースが飛び交っています。だけど、ニュースを見聞きするだけでは、いまいちピンとこなかったりすることも……。
そんなときはマンガを読もう! マンガを読めば、世相が見えてくる!? マンガから時代を読み解くカギを見つけ出そう! それが本企画、週刊「このマンガ」B級ニュースです。

今回は、「『電影少女』が実写ドラマ化!」について。


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『電影少女』 第1巻
桂正和 集英社 ¥390+税
(1990年7月15日発売)


あの名作『電影少女』(桂正和)が、2018年1月からテレビ東京系列で実写ドラマ化されることが発表された。
『電影少女』と書いて「ビデオガール」と読む本作は、90年代初頭に「週刊少年ジャンプ」に連載され、一世を風靡した恋愛マンガである。ピュアな心の持ち主にしか見えないレンタルビデオ店で借りたビデオテープから、そのビデオに出演している電影少女・天野あいが実体となって登場。主人公・弄内洋太の恋を応援するのだが、やがて洋太とあいの関係性が恋模様に発展して……。
中学生男子のムラムラとした妄想をそのまま具現化したような物語設定と、そして桂正和の超絶作画によるすばらしくフェティッシュなちょいエロ描写が、当時のジャンプ読者男子たちの心と股間を直撃した。

『電影少女』は、バブル全盛期のトレンドを満載した華やかさも魅力のひとつ。
そもそもレンタルビデオ店が日本で全国的に普及したのは88年前後のことなので、自宅でソファに寝転がってポテトチップスを食べながらビデオを見るスタイルを意味する「カウチポテト族」なる言葉も流行語になった。つまり「電影少女」のアイデア自体、当時の世相にマッチしたものだったのである。
昨今はインターネットでの配信サービスやV.O.D(ビデオ・オン・デマンド)方式が台頭してきているが、90年代以降の若者文化において中心的な役割を果たしてきた「ビデオ文化」を理解することは、『電影少女』を楽しむうえでも欠かせないファクターではないだろうか。 そこで今回は、マンガ作品を通じて「ビデオ文化」を読み解いていきたい。

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『怒りのロードショー』
マクレーン KADOKAWA ¥680+税
(2017年1月30日発売)


レンタルビデオ屋の文化を語るなら『怒りのロードショー』だ。
主人公のシェリフは映画が大好きな男子高校生。友人たちとひたすら映画についてダベるだけのマンガ……なのだが、彼の趣味はアカデミー作品賞を取るような重厚なドラマよりは、アーノルド・シュワルツェネッガーが大活躍するようなアクション。
シュワ愛やゾンビについて語り倒すという、愛すべき映画マニアなのだ!
ゾンビマニアのごんちゃん、シェリフの妹・トトちゃん、アニオタのロリコン・まさみ、ホラーが苦手のヒデキなど、個性豊かな友人たちと映画駄話を繰り広げる。
いろいろな権利関係をクリアして、すべて実名で語っている点も本作の美点だ。
彼らの行きつけのレンタルビデオ店が「Videoアーカイヴス」。店員のナカトミお姉さん(名前はもちろん『ダイ・ハード』のナカトミビルに由来!?)はシェリフたちに好意的な、やはりひと癖ある映画マニア。
地域住民がこぞってビデオを借りに行くレンタルビデオ店は、まさに地域の文化の担い手でもあり、ナカトミお姉さんはそれを象徴するかのような存在といえるだろう。

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『文庫版 係長 島耕作』 第3巻
弘兼憲史 講談社 ¥750+税
(2017年10月12日発売)


若い人たちは、ビデオテープにはVHSとベータマックスの2種類の規格があったことをご存じだろうか?
21世紀の初頭にはブルーレイとHD DVDが光ディスクの規格争いをしてブルーレイが勝利を収めたが、ビデオテープではVHSとベータマックスが規格争いをし、VHSが勝利したのであった。
このVHSとベータマックスの規格争いを題材にしているのが『係長 島耕作』だ。
本作は『島耕作』シリーズのスピンオフ的な作品。「モーニング」誌上で連載しているシリーズ本編は、時代の経過とともに『課長』『部長』『取締役』『常務』『専務』『社長』『会長』と島耕作は右肩上がりに出世していくが、それとは別に「イブニング」誌上では『課長』以前の島耕作の若い頃を描いたシリーズが続いている。『ヤング島耕作』から『係長島耕作』、さらにさかのぼって『学生 島耕作』『学生 島耕作(就活編)』と連載が続いており、いわば「島耕作プリクエル」といえるシリーズなのだ。
『係長』は『課長』から始まるオリジナルシリーズに連なる時代背景であるため、島耕作サーガに占める位置づけとしては非常に意味深い。 そして課長昇進を目前に控えた係長・島耕作(文庫版第3巻)が挑むのは、VHS対ベータのビデオデッキ商戦であった。

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『キン肉マン』 第24巻
ゆでたまご 集英社¥400+税
(2013年6月6日発売)


ビデオは若者文化の主役に躍りでたが、かわりに廃れたものもある。
それがラジオだ!
テレビやビデオの登場によって、ラジオ・スターは仕事を奪われたのだッ!
ビデオがラジオ・スターを殺したッ!
まさにラジオ・スターの悲劇!!
だが、ビデオが殺したのはラジオ・スターだけだろうか?
さにあらずっ!

キミはマリポーサ・チームの次鋒として出てきた超人ミスター・VTRをおぼえているだろうかッ!?
キン肉マンは新キン肉バスターからの超人絞殺刑でミスター・VTRに勝利する(コミックス25巻)も、続く中堅のミキサー大帝によって、火事場のクソ力を邪悪大神殿に封印されてしまう。このときキン肉マン本体が超人墓場に行きついたことを報告したのが、ミスター・VTRであった。超人墓場を脱出したキン肉マンは、なんとミスター・VTRの腹部モニターをかち割ってリングに戻ってくる。
ミスター・VTRとしては、いい迷惑であるッ!
だがミスター・VTRは、キン肉マンがミキサー大帝にキン肉ドライバーを仕掛けた際に、最期の力を振り絞って状況予想装置の編集機能を利用し、キン肉マンの技がさく烈する瞬間のコマをハサミで切り取ってしまったのだッ!
なんというフェイクニュース!
なんというメディアリテラシー!
かくしてキン肉マンはミキサー大帝に敗れ去るのだが、その要因となったのがミスター・VTRであった。
そう、VTRはラジオ・スターだけでなく、キン肉マンも殺していたのだッ!!!!
ちなみに、2011年から再開した新シリーズ「完璧超人始祖編」(38~60巻)では、超人墓場が作中で非常に重要な役割を担う。ミスター・VTRが超人墓場を映しだしたのは1985(昭和60)年の「週刊少年ジャンプ」6号のこと。いまから30年以上も前に「完璧超人始祖編」につながる布石が、ミスター・VTRによって敷かれていたのだ!
げ、げえ~~~っ!!

実写版『電影少女』は、公開されている情報によると、原作から25年後の世界が舞台となるらしい。つまり現代だ。そして主人公は、弄内洋太の甥とのこと。
すでにビデオ文化は廃れ、日々の暮らしからビデオテープは姿を消している。この配信文化が全盛を迎えつつある現代において、かつては地域文化の担い手であり、世界規模の規格争いに勝利し、のちのキン肉大王にも勝利したビデオは、ドラマ内においてどのような描かれ方をするのだろうか?
今から内容(とサービスシーン)が気になるところだッ!!



<文・加山竜司>
『このマンガがすごい!』本誌や当サイトでの漫画家インタビュー(オトコ編)を担当しています。
Twitter:@1976Kayama

単行本情報

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