なお、転生モノには「チート」と呼ばれる設定的な特徴がある場合が多い。
主人公が圧倒的な「俺TUEEEEE!」状態になるものだが、なにしろ本作の場合は主人公が転生する先はヤムチャ。地球人としては世界最強クラスのひとりに違いないが、宇宙最強クラスのZ戦士のなかでは、チャオズと並んで弱い部類に入ってしまう。しかし本作の転生ヤムチャは、『ドラゴンボール』のストーリー展開を知っている。「未来を知っている」チート能力を武器に、“ヤムチャとして”の最大限の努力をしていくことになる。
ここに通常の転生モノとはひと味違う、『リプレイ』(ケン・グリムウッド)や『ジパング』(かわぐちかいじ)、『All You Need Is Kill』(桜坂洋)に代表されるような、ループものの歴史改変SFに通じる妙味がある。『ドラゴンボール』の世界観は、すでに説明不要なほど、多くのマンガファンに共有されていると気づかされ、あらためて『ドラゴンボール』のすごさにも気づかされる。
そもそも、ヤムチャ級の実力があれば、Z戦士の戦いにさえ巻きこまれなければ、ドラゴンワールドでは「勝ち組」になれるはずだ。この『転生ヤムチャ』の主人公である男子高校生は、そうした敵前逃亡をせず、あくまでヤムチャとしてZ戦士の戦いに関与し続ける。そうした実直さがあるからこそ、読者はこの転生物語を素直に受け入れられるのではないだろうか。
<文・加山竜司>
『このマンガがすごい!』本誌や当サイトでの漫画家インタビュー(オトコ編)を担当しています。
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