日々発売される膨大なマンガのなかから、「このマンガがすごい!WEB」が厳選したマンガ作品の新刊レビュー!
今回紹介するのは、『DRAGON BALL外伝 転生したらヤムチャだった件』
『DRAGON BALL外伝 転生したらヤムチャだった件』
ドラゴン画廊・リー(著) 鳥山明(原作) 集英社 ¥400+税
(2017年11月2日発売)
転生モノ、それは事故や事件や神様の手違いで若くして死んだ人が、異世界の人間に転生し特別な力を得て冒険するという、近頃WEB小説を中心に流行のジャンルである。
そして、本作の主人公もそんな異世界に転生してしまう人物のひとりなのだが、転生した先は生前の彼が大好きだった『ドラゴンボール』の世界、そして転生した人物は悟空と出会って間もないころのヤムチャ!
憧れの世界の人物になりブルマというかわいい彼女もできて、有頂天のヤムチャ(転生)だったが、ここで彼は重要なことに気づいてしまう。このまま原作どおりに歴史が進めば、彼はサイヤ人襲来のタイミングで、栽培マンに殺されてしまうのだ!
かくして彼は未来を変えるために、そしてヤムチャに押しつけられたヘタレキャラという烙印を跳ね除けるために修行の日々を開始する!
ヤムチャといえば、初期はドラゴンボール主人公・孫悟空のライバルっぽい立ち位置だったにもかかわらず、たび重なる物語のパワーインフレについていけず、彼女だったブルマもベジータに取られてしまい、物語からどんどんフェードアウトしていった悲しきキャラクターだ。
だがしかし、もしもヤムチャが慢心することなく悟空たちといっしょに修行を積めばもっと別の可能性があったのでは……?
そんなロマンあふれる内容が描かれた本作では、全世界のヤムチャファンが夢見た光景が展開される! サイヤ人襲来時にZ戦士の中心としてページの真ん中に堂々と立つヤムチャ(転生)、栽培マンの自爆をいとも簡単に防ぐヤムチャ(転生)、ナッパを圧倒するヤムチャ(転生)、悟空と肩を並べてともに戦うヤムチャ(転生)……。著者であるドラゴン画廊・リーが、絵柄やアクションシーンの構図など、ドラゴンボール連載当時の鳥山明を忠実に再現しているので、その感動もひとしおだ。
もちろん普通にトレーニングしただけでは、地球人のヤムチャがこれだけ強くなれるはずがないので転生者特有のチート行為はしているのだが、ここでおもしろいのがちゃんとヤムチャがドラゴンボール世界ならではの裏技を使って強くなっている点だ。そういえばそんなパワーアップの手段があったよな、と読んでいてつい感心してしまう。
そんな感じで順風満帆なヤムチャ生活を送る主人公だが、ある時この世界の重大な秘密に気づいてしまい……!
今流行の転生モノと、その不遇な立場から昔からいろいろとネタにされてきたヤムチャを組みあわせた本作品。ここから感じられるのは、何よりも強い“ヤムチャ愛”、そしてヤムチャにかぎらず『ドラゴンボール』という作品への深い洞察とリスペクトだ。
物語本編はもちろんだが、原作コミックス本編の体裁を再現した扉や登場人物紹介の構図、カバー下で展開される知られざるヤムチャの活躍など、作品全編をあますことなく楽しんでほしい。
<文・犬紳士>
養蜂家。好きな野鳥はメジロ。
Twitter:@gentledog