複雑化する現代。
この情報化社会では、日々さまざまなニュースが飛び交っています。だけど、ニュースを見聞きするだけでは、いまいちピンとこなかったりすることも……。
そんなときはマンガを読もう! マンガを読めば、世相が見えてくる!? マンガから時代を読み解くカギを見つけ出そう! それが本企画、週刊「このマンガ」B級ニュースです。
今回は、「橋本環奈、ノーバン始球式」について。
橋本環奈 ファースト写真集 『Little Star -KANNA15- 』
レスリー・キー (写真) ワニブックス ¥2500+税
(2014年11月14日発売)
「天使すぎるアイドル」こと橋本環奈が、セーラー服でノーバン!
…… というニュース、みなさんどう思います!?
どこのスポーツ新聞もニュース系サイトも、見出しは「橋本環奈セーラー服でノーバン」ですよ。
そんなもんねぇ、どう考えても「ノーパン」との見間違いを狙っているじゃないですか。
期待して記事を読んだら
「パ・リーグのCSファイナルステージ第1戦で始球式を務めた。セーラー服姿で登場した橋本は、見事なノーバウンド投球で球場を盛りあげた」
とか書かれてて、「な~んだ」って……そんなミエミエの魂胆に乗ってたまるかッ!
おためごかしはウンザリだ! 俺たちが本当に見たいのはノーパンだッ!!!
これからの「ノーパン」の話をしよう。
というわけで今回は、ノーパンについての白熱教室です。
パンツがなくても恥ずかしくないモンッ!!
さてさてノーパンといっても、劇画や成年誌には当然のように全裸が出てくるので、それらは除外。あくまで週刊の少年誌(少年ジャンプ、少年サンデー、少年マガジン、少年チャンピオン)に焦点を絞りたい。
喫茶店もしゃぶしゃぶ屋も健康法もノーパンになるくらいノーパンを文化的に希求してきたこの国で、「少年向け」のメディアではノーパンはどのように扱われてきたのかを探求するのは、とても意義深いはずだ。たぶん。
なお、ノーパンは読者に対するサービスショットと位置づけられるが、サービスショットの許容範囲は雑誌ごとに異なる。
そもそもノーパンは主人公がラッキースケベ的に遭遇するものなので、主人公とヒロインの関係性や身体的接触がどこまで許容されるかという、雑誌ごとのゾーニング意識も反映される。
それらを考慮したうえでのおおまかな傾向としては、
・「ジャンプ」はオッパイまでOK
・「サンデー」はパンチラまで
・「マガジン」はヤってる
「チャンピオン」の場合は、まぁ、その、なんというか……「けっこうな趣味をお持ちですね」といったところか。
以下、各誌の代表的なノーパンを見ていこう。
『ドラゴンボール 完全版』第1巻
鳥山明 集英社 ¥933+税
(2002年12月4日発売)
「ジャンプ」代表は鳥山明『ドラゴンボール』だ。
カメを助けたお礼に亀仙人が孫悟空に筋斗雲を与えるが、それをブルマがうらやましがって、自分にも何かくれとおねだりをする。
このとき亀仙人は「パンチーを見せてくれたらな!!」と条件を出し、ブルマは「それぐらいならなんとか…」と言ってスカートをたくしあげるのだが、その日の朝に悟空がブルマの下着を脱がせていたせいで、ブルマはノーパン姿を亀仙人とカメに披露するハメに。
連載開始から第4話目にして、小便は漏らすわ、ノーパン姿を見せるわ、ブルマはヒロインなのにさんざんな扱いだ。
これは本人がノーパン状態に無自覚ゆえに晒してしまった、というラッキースケベの典型である。このパターンは、以降、さまざまなマンガ作品に受け継がれていく。
『常住戦陣!! ムシブギョー』第6巻
福田宏 小学館 ¥419+税
(2011年6月17日発売)
続いて「サンデー」代表は、現在連載中の福田宏『常住戦陣!! ムシブギョー』を挙げたい。
本作のヒロインは、蟲奉行所近くの茶屋「春夏秋冬」の看板娘・お春。「桃」といわれるほどの巨乳の持ち主で、蟲に襲われたり、仁兵衛がころんでもつれてきたりするたびに抜群のプロポーションを披露している。ときには胸元に鰻が侵入したりするのだから、これはもう間違いなくサービスショット要員だ。
ソフト路線の「サンデー」にしては、がんばってるぞッ!
どうしても胸ばかりが強調されがちだが、コミックス6巻の巻末にある「おまけマンガ絵巻『春夏秋冬』目安箱」のコーナーでは、「お春さんの下はどうなっているんですか?」との読者の質問に対して「はいてません!!」との回答が! 江戸時代だからパンツが存在しないのは時代設定的に正しいのだが、いずれにせよヒロイン・お春はノーパンである。そういう目で最初から読み直してみると、またひと味違った味わいがあるのではないだろうか。
『魔法先生ネギま!』第25巻
赤松健 講談社 ¥400+税
(2009年2月17日発売)
「マガジン」のラッキースケベといえば、赤松健『魔法先生ネギま!』である。
主人公・ネギの父親であるナギは、かつて魔法世界を救った英雄。その父親とともに戦ったのが、傭兵剣士のジャック・ラカンだ。
魔法世界で暦と環のコンビと対峙したときには、無音ぬがし術によって暦のパンツを抜きとった(25巻)。
29巻での再会時にも「秘奥義・無音めくり&脱がし術!!!」によってパンツを奪ったあげく、「男の子の夢を叶える風系究極奥義」によって風を巻き起こし、暦たちをノーパン姿にしてしまう。
不可抗力(ラッキースケベ)でノーパンに遭遇、とかいうレベルではない。はいているものをムリヤリ脱がすのだ。
えー……、普通にアウトだろ……。
まあ、「いやーん」とか「スースーするですぅ」ですんでいるのだから、やっぱり「マガジン」すげえな。
『弱虫ペダル』第41巻
渡辺航 秋田書店 ¥419+税
(2015年8月7日発売)
そして俺たちの「チャンピオン」からは、渡辺航『弱虫ペダル』だ。
ロードレースの競技者は、通常はレーサーパンツ(通称レーパン)というものをはく。スパッツのようなもの、といえばおわかりいただけるだろう。
このレーサーパンツは、ロードレーサーに乗るにはもっとも効率がよいつくりになっていて、身体のラインがモッコリと浮き出るもの。また、基本的にレーサーパンツの下は、なにも着用しないのが原則だ。もちろん下着なんて、論外ッ! というか筆者も学生時代はノーパンでレーパンでした。
実際、ロードレーサーに乗り始めたばかりの初心者サイクリストにとっては、レーサーパンツをはいて外に出ることが最初の壁だったりする。どうだったんですか、小野田くんッ!!
というわけで、小野田くんも金城さんもアブアブ言う人も、本作に出てくる人物たちは全員ノーパンです。
レースシーンなんかは、ノーパンの集団(ペロトン)と思って見てほしい。
ノーパンでペロトンしちゃってレーパンなうえに、スネ毛まで剃っちゃってるんですか、小野田くんッ!!
なにせ「チャンピオン」は、サイクル・ロードレースという世間的にはあまりメジャーではないスポーツを題材にしながら、曽田正人『シャカリキ!』と『弱虫ペダル』の2作品をヒットさせた実績を持つ雑誌。
やっぱり「チャンピオン」はひと味違うンである。
このように少年誌におけるノーパンは、コメディ・リリーフ的に使われることが多い。
それもそのはず、ガチなトーンでノーパンになったら、流れ的に“そうなる”しかないわけで、“そうならない”ようにギャグ扱いしているわけだ。
最近の世間の風潮では「はいてます」が安心を担保するようだが、少年マンガ的には「はいてなくても安心」なのである。
<文・加山竜司>
『このマンガがすごい!』本誌や当サイトでの漫画家インタビュー(オトコ編)を担当しています。
Twitter:@1976Kayama