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『チェイサー』 第4巻 コージィ城倉 【日刊マンガガイド】

2016/09/23


日々発売される膨大なマンガのなかから、「このマンガがすごい!WEB」が厳選したマンガ作品の新刊レビュー!

今回紹介するのは、『チェイサー』


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『チェイサー』 第4巻
コージィ城倉 小学館 ¥552+税
(2016年8月30日発売)


マンガ界のレジェンド・手塚治虫。
手塚治虫を題材にした漫画作品といえば、近年では『ブラック・ジャック創作秘話 手塚治虫の仕事場から』(原作:宮崎克、漫画:吉本浩二)がまっ先に思い浮かぶ。
ドラマ化もされた『ブラック・ジャック創作秘話』は、関係者から聞きとった証言をもとに手塚伝説を再現したセミドキュメンタリーだったのに対し、『チェイサー』は手塚治虫を勝手にライバル視し、どこまでも追いすがろうとする架空の漫画家・海徳光市を主人公とした漫画家マンガだ。

海徳光市は自称・元特攻隊(実際は整備兵養成学校の生徒で戦場には行っていない)で、戦記マンガを中心に、少年誌3冊、青年誌1冊に連載を持つ、そこそこの売れっ子漫画家。
伝説だらけの手塚治虫と同じ時代を、同じ漫画家として過ごしていたら……という視点で日本のマンガ界の黎明期を追体験できるのがこの作品の楽しさだ。

手塚が連載を増やしたと聞けば自分も連載本数を増やし、手塚が結婚したと聞けば自分も結婚。
手塚が家を新築したと聞けば、もちろん負けじと一戸建てを新築する始末。
「手塚治虫=マンガの神様」という評価が不動のものとなっている現在の目から見ると海徳の努力は無駄なあがきにしか見えないが、同じ人間ならば俺にも……と手塚に必死に追いすがる海徳の獅子奮迅っぷりが痛ましくもおかしい。

ちなみに、「少年画報」の欄布(ランプ)はアセチレン・ランプ、「冒険王」の刃矛(ハム)はハム・エッグ、「野球少年」の六狗(ロック)はロック・ホーム、「少年ジャンプ」の日下(ヒゲ)はヒゲオヤジと、登場する編集者たちが手塚キャラにちなんだネーミングになっているのもポイント。

昭和30年代前半から始まった物語も昭和40年代前半にまで進み、海徳を取りまく環境も変わりつつあった。
『鉄腕アトム』が切り拓いたテレビアニメ人気は続いており、海徳の戦記マンガ『虎、旋回す』も『タイガージェット』のタイトルで放送開始。
アニメは半年で打ち切られるが、新しく創刊した少年漫画雑誌「少年ジャンプ」に海徳が描いた『おれのドラゴンボウル』が読者からの支持を受け、『ハレンチ学園』(永井豪)、『男一匹ガキ大将』(本宮ひろ志)などとともに看板作品へとなっていく(「少年ジャンプ」で『ドラゴンボウル』!)。

かたや手塚は「少年サンデー」で連載していた『どろろ』が打ち切られ、編集は「子ども漫画家」としての手塚が終わりつつあると予想する。
ついでにいうと海徳家に4人目の娘も生まれ、子どもの数でも手塚を抜いた。
今まで手塚の尻尾を追い続けてきた海徳が、初めて手塚をリードしたのがこの巻なのだ。

10万5千部でスタートした「少年ジャンプ」は50万部を突破し、当初の隔週刊から週刊へとチェンジ。『おれのドラゴンボウル』はおりからのボウリングブームも追い風となってアニメ化が決定する。
しかも、アニメーションを制作するのは、あろうことか虫プロダクション。
海徳は手塚治虫と、"原作者"と"制作会社の社長"として初対面することになる。
常にその背中を追い続けた手塚治虫を目の前にして、海徳はいったい何を語るのか?
急速に変化する時代のなかで、手塚は悪化する会社経営とヒット作を生み続けなければならない自身の立場の板ばさみとなり、やがて虫プロ商事、虫プロダクションの倒産の憂き目に遭う。
海徳は手塚を乗り越え、このまま成り上がっていくのか?

「手塚治虫がそんなに簡単に打倒できるか~~~~ッ!」



<文・秋山哲茂>
フリーの編集・ライター。怪獣とマンガとSF好き。主な著書に『ウルトラ博物館』『ドラえもん深読みガイド』(小学館)、『藤子・F・不二雄キャラクターズ Fグッズ大行進!』(徳間書店)など。構成を担当した『てんとう虫コミックスアニメ版 映画ドラえもん 新・のび太の日本誕生』が発売中。4コマ雑誌を読みながら風呂につかるのが喜びのチャンピオン紳士(見習い)。

単行本情報

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