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『このマンガがすごい! comics 13月の悲劇 美内すずえセレクション 白の書』 (美内すずえ) ロングレビュー! 美内ホラー史上”最恐”。みんなのトラウマ「白い影法師」が復活!!

2018/01/26


そして『白い影法師』は1975年の「mimi」創刊号で読み切り掲載されたもの。
かれこれ30年以上前のマンガにもかかわらず、いまだに最恐トラウマとして少女漫画ファン以外にもその名を轟かす、オカルトホラーの金字塔的作品だ。

学園を舞台に、ある女子高生を襲った恐怖体験をリアリティあふれるエピソードの積み重ねで描いてゆくスタイルは、当時としては新鮮であり、「ほんとにあった怖い話」や「学校の怪談」など、のちに主流となる実話系ホラーに通じるもので、その先見の明にも驚かされるが、コックリさん、ラップ音、心霊写真、超能力少女、霊媒師……など、当時一世を風靡していたオカルト要素がふんだんに盛りこまれているのも懐かしく、新鮮。

懐かしい~!となった人は年齢がバレる? 70~80年代に一世を風靡したコックリさんや心霊写真ネタも楽しい。

とはいえ、特筆すべきは今でいう「ジェットコースター式」な展開の巧みさ。
小さなエピソードの積み重ねで飛躍的に緊張感が高まってゆく、鮮やかすぎるストーリーテリングには舌を巻くばかり。
不必要にダラダラと長いマンガも少なくない昨今だからこそ、このスピード&緊張感は、改めて評価されるべきものだろう。

クライマックス、不意に目に飛びこんでくる「例のシーン」の衝撃はもはやマンガという枠を超えた、日本のエンタテイメントの至宝。ぜひ後世に受け継がれてほしい(&外国語版、出してほしい!)と本気で願わずにいられません!

ここで「来る」とわかっていても毎回本気でギャッ!と恐怖せずにいられない…! 心臓が悪い人は要注意です。

そして、『孔雀色のカナリア』は、1973年に月刊セブンティーンにて3カ月にわたり連載された作品。
貧乏で孤独な境遇のもと育ったヒロインが、生き別れ、裕福な家で育った双子の妹を殺し、彼女に成り代わるという当時の少女マンガとしてはかなりショッキングで異色といえる内容のものだ。

若い女の子が殺人を犯す…という話自体、当時の少女マンガとしては異色であり、ショッキングだった。描写がまたリアル!

トリックやアドリブ工作など、犯罪サスペンスとしての醍醐味を巧みに散りばめながらも、哀しい運命に翻弄される少女の苦悩や不安や歓喜を生々しく描き出す、スリリングで鮮やかなストーリーテリングは松本清張も真っ青。
ラストの少女の恋、つかのまの幸福には涙せずにいられない!

ダイナマイトで雪崩を人工的に起こすなど、2時間サスペンスさながらのトリックやアリバイ工作にドキドキ。

個人的にも5本の指に入る、美内先生の短編の名手っぷりを堪能できる、隠れた大傑作だ。



<文・井口啓子>
ライター。月刊「ミーツリージョナル」(京阪神エルマガジン社)にて「おんな漫遊記」連載中。「音楽マンガガイドブック」(DU BOOKS)寄稿、リトルマガジン「上村一夫 愛の世界」編集発行。
Twitter:@superpop69

単行本情報

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