とある王国の森には、魔法を使う猫・ケットシーたちと竜が住んでいた。
人間から「皇竜」と恐れられる竜だが、じつは卵を産んだ母竜が人間に殺され、猫に育てられた身。そんな縁もあり、長い寿命のなかで今度は代々の子猫たちを育て魔法を教えてきた……。
冒険もののような雰囲気を漂わせてはいるが、基本は日常もの。好奇心旺盛で言葉を話せる猫たちは人間が好きで、街に出て子どもと交流することも。人間ぎらいの竜も、育てた子猫に引っ張られ心を開く。竜、猫、人間、三者の関係が読みどころだ。小説もそうだが、作中に固有名詞はほとんどなく、語り継がれてきたおとぎ話をイメージさせる。
王族にしては魔力が弱い第一王子と彼に魔法を教える子猫、怖がりな魔法学校の少女と面倒見のいい母猫……そんな温かいエピソードが連作で展開される。
フワフワな猫の愛らしさ、竜のコワモテだけど守るべき者にはやさしいカッコよさ。その両者がうまく噛みあう。
賢い猫と人間の関係も理想的で、どこからかこんな猫がうちに迷いこんでこないかなと思ったりして。ゆったり読めて、やさしい気持ちになれるファンタジーだ。
<文・卯月鮎>
書評家・ゲームコラムニスト。週刊誌や専門誌で書評、ゲーム紹介記事を手掛ける。現在は「S-Fマガジン」(早川書房)でファンタジー時評、「かつくら」でライトノベル時評を連載中。
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