祝! 是枝監督最新作『万引き家族』パルムドール受賞!!
5月21日、日本映画史に残る一大ニュースが日本中をかけめぐった。
『誰も知らない』や『三度目の殺人』などを手がけ、数々のオリジナル作品を生み出してきた是枝裕和監督の最新作、『万引き家族』(2018年6月8日全国ロードショー)が、なんと第71回カンヌ国際映画祭の【コンペティション部門】において、最高賞であるパルムドールを受賞!!!
日本映画におけるパルムドールの受賞は、1997年の今村昌平監督の「うなぎ」以来、21年ぶりの快挙。
是枝監督、おめでとうございます!!!!!!
是枝監督の凱旋帰国会見を全文公開!!
そして今月23日、羽田空港で開かれた是枝監督の会見の内容を、今回「このマンガがすごい!WEB」にて全文公開いたします!
受賞したことによる喜びいっぱいの感想から、祥太役を演じた注目の子役、「城桧吏(じょう・かいり)」くんの魅力について、さらには20年以上に渡り映画製作に携わった監督から見た「映画業界の変化」、そして「これからの課題」について、いろいろと語っていただきました!
ぜひご覧ください!
――まずは監督、本日はカンヌ、そしてニューヨークへの長期出張で、すぐにこの会見に駆けつけていただきまして、本当にありがとうございます。まず皆様にひと言ご挨拶をお願いします。
是枝 雨のなか、こんな遅くに、多くの方に集まっていただきありがとうございます。そうですね、ようやくここに帰ってきて、スタッフのにこやかな顔を見ましたら、ちょっと実感が湧いてきました。公開がまだなものですから、来月の公開に向けて、まだこれから、今度は宣伝活動も始めないといけないので、あまり緩んだ笑顔を見せている場合でもないので。気合いを入れて、公開に向けて走りたいと思います。よろしくお願いします。
――賞を獲ってから3日半くらい経つと思いますが、時間が経って今実感が湧いてきたとおっしゃっていましたが、具体的にどういう思いが改めて湧き上がってきたかというところを教えてください。
是枝 これだけの記者の方たちが集まっているということが、一番、大きな賞なんだなと改めて思いますし、そうですね……実感ね……。実感は今、ちょっとずつですね。これからだと思います。すみません。
――これから(映画公開に向けての)キャンペーンなどがたいへんだというお話があったんですけど、うちに帰ってからやりたいことってありますか? キャンペーンとは別に。
是枝 今、シャワーを浴びたので、ちょっとひと息ついたものですから、LINEとメールが山のように溜まってしまってですね。まだ、ありがとうの返信すらできていないので。今年はずっと撮影していたので、年賀状すら出せていないので、お礼ぐらいはちゃんとそれぞれの方たちにひと言でもメッセージを返したいなと思います。
――是枝監督は20年以上映画を撮られていますが、キャリアの最初がドキュメンタリーだったということで、映画をたくさん撮られても、自分はテレビの人間だという意識を強く持ってこられた方だと思います。カンヌの「パルムドール」という、映画の最高峰といえる賞を獲って、その意識に変化だったり、揺らぎだったりはございましたでしょうか?
是枝 いや、それは変わらないですね。とてもうれしいんですけど、基本的にどうしても観察してしまう。テレビディレクターの性なものですから。公式上映で拍手をいただいて、スタンディグオベーションでもなんとなく、そろそろ終わらないと、「なんだこいつ、まだ拍手がほしいのか」って思ってそうな人がいないかって探してしまうんです。そういう、あまり楽しめないところがあるんですよね。だから、それがいいんだか悪いんだかあれですけれど、そういう根っこは変わりませんし、それが僕の強みでもあれば、もしかすると弱点かもしれませんけれども、基本的には今までと同じスタンスで映画と、可能であればテレビにも関わっていこうと思っています。
――振り返ってみて、公式上映の時の反応とか、それは過去、今までコンペに出品した時の何か「違い」みたいなものは感じた部分はありますか?
是枝
意外と、前のことって忘れちゃうんですよね。『誰も知らない』の時も、たぶん温かい拍手をいただいていたと思うんですけど、あの時は、いっしょに連れていっていた子どもたちの蝶ネクタイをつけたり、タキシード着せたりしているうちに終わってしまった感じがあったんで、あまり覚えていないんですよ、じつは。今回の上映、拍手の長さがどうこうというのは、じつはあまり本質的なことではないと自分では思っているんですけどね。もちろん、長いと宣伝に使えるので、長いとありがたいのはもちろんですが(笑)。
ただ、深夜の上映にもかかわらず、とても熱い拍手が沸き起こった、そのこと自体は前向きに受け止めましたし、やはり何より翌日からの取材に来られる各国の記者の方たちが使う言葉づかいのなかに、「TOUCH」という言葉と「LOVE」という言葉が、すごく今回一番多かったかなと思うんですね。その、いろいろな言葉でまず感想をいってから取材が始まるケースが、ああいう場所ではだいたい基本なんですけど、最初にやはりそういう言葉が出てくるというのは、「あ、きちんと届いたなぁ」と。届いて、取材の数がどんどん増えてくる状況だったので、これはいい手応えなんだなと、翌日からかなり実感としては持ちました。
――日本人がパルムドール賞を受賞するのは21年ぶりですが、この21年の間でいろいろなテクノロジーや映像技術が変化をしてきたと思うんですけれども、監督が感じるこの21年間で失われてしまったなと思うものがあればお聞かせください。
是枝 映画からですか?
――テレビドラマでも映画でも。
是枝 失われてしまったもの?
――何か変化を感じるものがあれば。
是枝 他人の作品を見てということですか? 自分が関わっていて?
――両方ぜひ。
是枝
難しい質問ですね。カンヌに行って思うのは、上映がフィルムじゃなくなってるんです。僕はまだ撮影はフィルムにこだわって、今回なんかもフィルムの質感というのはデジタル上映でも残っていると思うんですが、それでも上映がデジタルになることで、映画のかたち、見られるかたちは確実に変わってきているので、まだ正直そのことをどう受け止めて、積極的にその変化に対応していくっていうことが僕のなかではまだできていないんです、じつは。
戸惑いながら、どうしたらいいんだろうっていう状況なんですよね。僕が映画に関わり始めてから20年の変化を一応、いっしょに歩んできたつもりで、最初フィルムの編集だったものが、デジタルになって、それになんとか対応しているんですけれど、そこから先はまだこれからですね。これから、すみません、答えにならないですけど。
――日本でも、城桧吏さんの演技がすごく注目されていますが、監督が城桧吏さんに驚かされたことはありますでしょうか?
是枝 城くん……。言葉が難しいんだけど、レンズを通すとすごく色っぽい。普段は本当に天真爛漫な男の子なんですけれども、レンズを通すと、非常に色気があるなというのが最初の印象。で、撮影をしていくなかで、台本は渡していないので、どういう物語か理解していないですし、普段は本当に撮影現場でも、妹役のみゆちゃんとずっと遊んでいるんですけど、その撮影が進んでいくと、まわりの大人をよく観察していて、「今回はどういうカット割りを撮るの?」って大人の行動を先読みし始めているんです。現場でスタッフが「じゃあカット2と3ね」ってやっていくと、次のシーンで城くんが先にそれを「じゃあ1、2、3」と真似をするようになっていて。そういう、非常にまわりを見ながら観察をして、またそれをこう自分の演技に活かしていくような、そういうところのある子でした。
――今、城桧吏くんの話につながるんですけれども、城くんは監督のことをよく観察していて、あることに関していっていました。監督、なんのことか想像つきますか?
是枝 現場で?
――よーく観察していました。
是枝 僕を?
――はい。
是枝 何ですか?
――予想つきませんか?
是枝 全然。
――そうですか。あのことじゃないかというのはありますか?
是枝 僕の癖ですか?
――それもあると思います。
是枝 えぇ……。降参。
――監督はよくコロッケをラーメンにヒタヒタして食べていたというので、なぜコロッケをラーメンにヒタヒタするのか監督に聞いてみたいといっていたんですけれども。
是枝 あぁ。なぜコロッケをラーメンにヒタヒタするのか……。
――これ映画にも出てくると思うんですが、じつは監督が好きだった?
是枝 おいしいですよ。コロッケの油とジャガイモが、スープに溶けて……(笑)。それはやられた方はみんなハマると思いますけど、スタッフも編集中に何度かやりました。おいしいです。ぜひ試してみてください。
――是枝さんの作品を見てきて、集大成という感じで、そういう作品で最高賞をとられて、すごく本当によかったなと思っております。これまで、貴重な出会いと別れが長い間にあったかと思うんですけど、日本映画がこれからますます発展していくために、どんなことが必要になるか。ご自分では、映画人を育てるために、「分福」も立ち上げたりして、若い人を一生懸命育ててらっしゃると思うんですけれども、映画人の養成機関なんかも必要じゃないかと、フランスだとすごく発展していますし、そういうことで、貴重なひと言をいただけたらと思います。
是枝
いろいろな課題がたくさんあるので、気がつけば口にするようにしています。自分の身の回りでできることはそうやってまわりから監督のオリジナルで企画を書いて、それを立ち上げて映画まで着地させるという、そういう監督発の企画が、まわりを見渡しても少なくなってきたなという印象があったんです。そこには自分ができる範囲で、積極的に関与しながら、まわりからそういう監督たちを産んでいったほうが、僕自身にとっても刺激になるので。そういう集団をつくって、地道に頑張っております。まずはここで、今年以降何人か、新しい監督たちをデビューさせていこうと企んでいますので、その支援をきちんとやれればなと思います。
……あの、しゃべり始めると、いろいろな文句になっちゃって、あまり今日は文句はいわずにですね、自分が取り組んでいくことをきちんとやりたいと思います(笑)。
――NYに行かれていたということなんですけれども、NYに行かれていた理由といいますか、次回作の打ち合わせとお聞きしていますけれども、差し支えない範囲で、どのような企画でどういったことをしようと思っていらっしゃるのか、それとアメリカでの受賞に関する反応をお聞かせいただければと思います。
是枝 いろいろ差し支えがありまして(笑)。しゃべれないんですけれど、正直、まさかこんなことになるとは思っていなかったので、直後に次回作の件でアメリカに渡る予定を入れてしまったものですから、ちょっと戻ってくるのに時間がかかったんです。近々、おそらく正式に制作発表的なことが行われるだろうと思いますので……。
――どんな言葉を現地の人にかけてもらいましたか?
是枝 NYで会っているのは本当にひとりとか2人なのですが……「断れないな」といわれました。
――今回、名だたるすばらしい監督がたくさんいるなかで、ご自身の作品が受賞された、その分析を教えていただけたら。
是枝
分析はみなさんがされたほうが……(笑)。僕が分析……そうですね、分析ですか。なんか、「こんなふうに褒められた」って自分で自分が褒められたことを喋ることになるんですけど大丈夫ですか? そこだけ切り取られると、「こいつ、すごい自慢げに話している」と思われるのは嫌なんですが(笑)。
授賞式の後に、各国の取材を受けて、夜中を回ったくらいから、公式のディナーがありまして、そこは受賞者と審査員の方たちが、カンヌの公式会場の脇のホールでごはんを食べていたんですけど、そこで、審査員の方たちと立ち話ですけれど、話をすることができて。
審査員長のケイト・ブランシェットさんが、とにかく……。あの今回の公式の記者会見でも彼女は話していたと思うんですけれども、「演出と撮影と役者とすべてトータルでよかった」という話をされていたましたが、その時は、安藤サクラさんのお芝居について、熱く熱く語っていました。
女優たちはみんな彼女のお芝居、ネタバレになるから特にあまり細かいところはいえないんですが、泣くシーンがあるんです。そのお芝居が、本当にすごくて、「もし今回の審査員の私たちがこれから撮る映画のなかで、あの泣き方をしたら、安藤サクラの真似をしたと思ってください」とおっしゃっていました。そのくらい、やはり彼女のこの映画のなかでの存在感は、審査員の女優たちを虜にしたのだなと、その時の会話でよくわかりました。
あとはチャン・チェンさん、ちょっと前から面識があるんですが、彼がいっていたのは、花火を見ている、家族全員が縁側に出て見えない花火を見上げているカットがすばらしかったと、撮影をすごく褒めてくれました。それぞれの方たちとのやりとりが、コンペの監督と審査員というよりは、本当にシンプルに見て心が動かされたという感想を順繰りに聞かせてくれるという、とてもいい時間でした。
――NYに行かれたその間にトロフィーはお預けになっていたんでしょうか? この間、3日半ぶりくらいにトロフィーを見て、どのような気持ちになられたでしょうか。
是枝 そうですね、NYに持っていくには重すぎてですね。本当に重いんですよ。いただいた当日は、授賞式からずっと持ち続けていて、しかも顔の近くにあげてといわれるものですから、筋肉痛が治ったのが、ようやく昨日くらいです。なので、さすがにこれを持ってNYには行けないので、スタッフに預けまして、金庫に保管していただいて、ここでさっき再会しました。
――どんな思いになりましたか?
是枝 そうですね。今思い出したんですけれども、『誰も知らない』の時に、たぶん、あれは空港じゃなかったかな、柳楽(優弥)くんにトロフィーを渡すという、こういう記者会見をした記憶が蘇ってきて、あの時は逆にずっと僕が持っていて、彼に渡したものですから、今回は逆にこう……それはそれでうれしかったんですけれども、今回また自分のところに戻ってきた感じで。記者会見終わったらどうなるんだろうと、まだちょっと相談していないので、僕が持って帰っていいのかどうか、相談します。ひと晩くらいは抱いて寝ようと思います(笑)。
――本当に多くの人が上映されるのを楽しみにしていると思うんですけれども、こういったところに注目して観てほしいみたいなところがあれば教えてください。
是枝
今回、やはり役者のアンサンブルというのが、とてもうまくいったなというふうに思っています。先ほど集大成というようなお言葉をいただきましたけれども、集大成といわれちゃうと、そこでキャリアがピークを迎えてしまうような気もするので、自分では使っていません。
ただ自分なりの子どもの演出の仕方というのをこの10年くらいやってきたことと、それから気心の知れて、とても撮りたいもの、そこで引き出したい感情をすごく理解して、シーンによっては演出側に回って、そういうものを引き出してくれる、樹木希林さんとリリー・フランキーさんがいて。そこに新たな、サクラさんとか松岡さんとかが加わってという、非常にバランスのいいかたちでメインの6人が集まりまして、どの瞬間もやはり皆さんのお芝居が惚れ惚れするくらい、みんなが相手のお芝居をきちんと受けられるという状況で、ワンカット目から始められるという、とても監督としては恵まれた環境で撮れたというのが、すごく大きかったような気がしますね。なので、まずは役者の芝居を見ていただければと思います。
――昨年の北京国際映画祭に出品された際のインタビューで、国際映画祭に向けたものと、そうでないものがあるとおっしゃっていたと記憶しております。そういった意味ですと、今回の作品というのは、どちら向きになるのでしょうか。
是枝 それはあれですかね、僕が国際映画祭に向けたものとそうでないものをつくっているということですかね。
――そういった意味ではないと思うんですけど、そういうふうにおっしゃっていたと記憶しているんですが。
是枝 ……たぶんいっていないと思います(笑)。
――数多く出品、カンヌ国際映画祭に作品を出されていると思うんですけれども、そのなかと比べたら、今回の作品というのは、何か手ごたえのようなものがあったりとかというのはあったのでしょうか。
是枝 でき上がった時に? さっきもいったように、役者さんが本当すばらしかったし、もちろんみんなすばらしいんですけれど、先ほど話したサクラさんが泣くシーンや、現場でカメラの脇で立ち会っていても、「これは特別な瞬間だ」っていうことが、何度もあったんですね、今回の映画は。そういう、いろいろな化学反応が現場で起きて、それはキャストの方だけでなく、もちろんスタッフも含めてですけれども、いい映画ができたのかなという実感は持っていました。
――——ありがとうございました。
監督自らが描き下ろした小説『万引き家族』が発売中!!!
そして、さらに!!
是枝監督自身が自ら描き下ろした映画の小説版が発売中!!
『万引き家族』
是枝裕和 宝島社 ¥1300+税
(2018年5月28日発売)
発売前から話題が話題を呼び、なんと、異例の発売前の3万部の重版も決定!!!
映画では描かれていない登場人物たちの過去や、ひとつ屋根の下で暮らす家族たちの、複雑に絡み合う想いや「声にならない声」が明らかになります。
また、題字とイラストはミロコマチコ氏、装丁は大島依提亜氏と、第一線で活躍するクリエイターが担当。
じつは、表紙のビー玉のイラストにもある秘密が! ぜひチェックしてみてください!
映画鑑賞前はもちろん、鑑賞後に読むとより作品のメッセージに向き合える一冊になっており、映画が気になっている方は、チェックをオススメします!!!
気になる「万引き家族」のストーリーは?
なんと、今回のパルムドール受賞をうけて、劇場の公開館数が300館以上に拡大&海外の149の国と地域に販売が決定しました! さらに6月8日の公開に先駆けて、6月2日(土)と3日(日)の2日間で先行ロードショーも決定!
公開前からますます期待が高まる『万引き家族』ですが、いったいどんなストーリーかというと……
<STORY>
高層マンションの谷間にポツンと取り残された今にも壊れそうな平屋に、柴田治(リリー・フランキー)と信代(安藤サクラ)の夫婦、息子の祥太(城桧吏)、信代の妹の亜紀(松岡茉優)の4人が暮らしている。彼らの目当ては、この家の持ち主である祖母の初枝(樹木希林)の年金だ。
足りない生活品は、万引きで手に入れていた。社会という海の底を這うような家族だが、なぜかいつも笑いが絶えず、口は悪いが仲良く暮らしていた。
冬のある日、近隣の団地の廊下で震えていた幼い女の子・じゅり(佐々木みゆ)を見かねた治が家に連れ帰る。体中傷だらけの彼女の境遇を思いやり、信代は娘として育てることにする。
だが、ある事件をきっかけに、家族はバラバラに引き裂かれ、それぞれが抱える秘密と切なる願いが次々と明らかになっていく―――。
映画では語りつくせなかった「家族を超えた絆」を、ぜひ本でたしかめてください!