雪が降れば「雪は天からの手紙だということを知ってましたか?」と結晶を手に取り「こちらは風なく空乾き」と読み上げたり、窓辺のチューリップを眺めながら「一枚の葉も無駄にはくっついてはいないのです」と説いてきかせる。
その理性的な語り口に秘めた、独特すぎるものの見方や考え方。ピュアな探究心の中にちらりとのぞき見えるロマンチシズムが、無機質な絵柄やミニマルに反復されるコマ割りもあいまり、静かに心を揺さぶってくるのだ。
「詩と科学とは同じ場所から出発したばかりではなく、行きつく先も同じなのではなかろうか」という湯川秀樹の言葉を借りるならば、本書は「詩と科学の幸福な結合」だ。
頭の中にすうっと乾いた風が吹き抜けてゆく、この心地良さは、情念てろてろの文系世界の住人にこそ、新鮮で魅力的に映るはず。
各章の最後には、著書からの抜粋文や担当編集者による本の紹介文本の紹介文も収録。
「ふしぎの芽」を育てる扉も提示されているが、おそらく無数の暗号が秘められているであろう、ともきんすの物語を読み解くだけで、まだまだ当分はゆっくり楽しめそうなのです。
『ドミトリーともきんす』著者の高野文子先生から、コメントをいただきました!
<文・井口啓子>
ライター。月刊「ミーツリージョナル」(京阪神エルマガジン社)にて「おんな漫遊記」連載中。「音楽マンガガイドブック」(DU BOOKS)寄稿、リトルマガジン「上村一夫 愛の世界」編集発行。
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