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『ダンジョン飯』(九井諒子)ロングレビュー! 闇にうごめくモンスターを……食う!? だれも見たことがないダンジョングルメ事情

2015/02/18


不思議なことが当たり前のファンタジーだけど、食事の感覚は現実とそう違いはない。
エルフの魔法使い・マルシルだって厚切りベーコンと芋のグリル、大盛りフライ丼をうっとりと夢見る。
前々から魔物を食べる機会をうかがっていたライオスは、この世界でも「アタマのおかしな奴」である。魔物が好きで姿や生態に興味を持ち、味まで知りたくなった魔物サイコパスである。

しかし、腹ぺこは美味には勝てず、「おいしいごはんを作ってくれる人」は常に正しい。
不衛生そうな大蝙蝠なんてとんでもない、鳥や木の実と……と常識的なダメ出しをするマルシルが、ワガママだと指差されるあべこべっぷり。鍵師のチルチャックよ、君もごはんの味方なのか。

基本的にはライオスとセンシに対するツッコミ役のマルシルとチルチャックだが、時にはこの2人が主役になることも。

基本的にはライオスとセンシに対するツッコミ役のマルシルとチルチャックだが、時にはこの2人が主役になることも。

こうした常識と非常識の逆転、具体的にはクルクル変わるマルシルの表情が見どころのひとつ。さっきまで嫌がっていた人喰い植物のタルトがおいしいとパクつき、しまったと悔やむエルフ娘なんて最高のごちそうだ!

そしてファンタジーマンガは目で味わうが、食事は味覚・触覚・嗅覚・視覚・それに聴覚(肉の焼ける音も味のうちだ)の五感を総動員するもの。この間に架け橋をかけているのが、「食材としての魔物」の生態を深く掘り下げた考察だ。

大サソリは刺激に反応して獲物(棒)をつかむから、ザリガニ釣りよりもかんたんに捕まる、一口に人食い植物の実と言っても養土型(地面に埋めて肥やしにする)は瑞々しくて甘みがある、消化型(そのまま食う)は詰まっていて味が濃い。
バジリスクは鶏とヘビのどちらが本体で、卵はどちらのタイプか……九井先生は本当にバジリスクを食べたい!と心の底から思われているのでは。

飛びきりのスグレモノが、動く鎧の設定だ。ライオスは初期の話数から食べたいと言っていたけど、金属をどうやって?と首をひねっていたら、この考え方はなかった!と膝を打った。ネタバレは控えるので、未読の人は考えてみるのもいいだろう。

動く鎧と戦いながら勝機を見いだすライオス。けっこうなピンチにも頭のなかには“食えるかどうか”という考えが……。

動く鎧と戦いながら勝機を見いだすライオス。けっこうなピンチにも頭のなかには“食えるかどうか”という考えが……。

そうは言ってもファンタジーにどっぷりつかったダンジョンのなかで、メシのことしか頭にないダンジョン料理人・センシの存在感がすごい。
「毒消しは単体で食べるより調理したほうが美味い」からと瀕死の被害者の横でバジリスクをじっくりロースト。
食生活の改善、生活リズムの見直し、適切な運動を勧めた初心者パーティは、食材を調達するために全滅。
煮えたぎった油のワナにかかっても、この油でマンドレイクのかき揚げが作れると大喜び。
健康のためなら死んでもいいと思ってる現代人の闇がうかがえるキャラだ……とは深読みしすぎですね。

最後にひとつ忠告。ゲーム機やスマホでダンジョンRPGをたしなんでいる人は、このマンガを読まないほうがいい。スライムを見てもドラゴンを見ても、お腹がグウとなってしょうがないから。
せっかく魔物料理のレシピが載ってるのに、食材が画面のなかから持ち出せないこの辛さ!



<文・多根清史>
『オトナアニメ』(洋泉社)スーパーバイザー/フリーライター。著書に『ガンダムがわかれば世界がわかる』(宝島社)『教養としてのゲーム史』(筑摩書房)、共著に『超クソゲー3』『超ファミコン』(ともに太田出版)など。


単行本情報

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