じつをいえばいちこは、早乙女一筋でここへ至ったわけではない。
早乙女との仲があやふやだった時に、編集の越智宏彦(31)と結婚を前提につきあおうということになっていたのだ。
しかし彼の実家に行こうとする寸前に、早乙女に押しかけられ、結局よりを戻してしまう。
当然越智は傷つく。いちこは謝罪のメールを送るが、それに返事は来なかった。
そして5巻になって、いちこはついに越智と顔をあわせる。あらためて謝るいちこに、越智は自分も悪かったと謝ってくれて――。
早乙女とは違い、越智に対しては、いちこの脳内会議は比較的穏やかだ。
当初、いきなりキスをされても、瞬間の感覚担当ハトコでさえ「越智さん、いいひと」で終わっていた。
しかし早乙女に対しては、話がクライマックスに進むにつれ、どんどん脳内会議はヒートアップしていく。
そしていちこが出した結論は……?
第2巻で登場した上のオブジェが象徴するものは、とても大きい。
この作者、こういう小物の扱い方が、じつに絶妙なのだ。
真木よう子主演で、現在実写映画も公開されているこの作品は、当5巻で完結する。
そのエンディングを、どう解釈するか。納得するか否か、もしかしたら意見が分かれるかもしれないとも思う。
しかしそれはともかく、エンディング直前に用意されたカタルシスは必見。
ここを味わうことで、なるほど『脳内ポイズンベリー』はこのための物語だったのか、と感じることは間違いないはずだ。
脳内会議の5人のキャラクターたち。
それぞれが性格やルックスに至るまで、非常にみごとに、美しく役割分担されている。このあたり、作者のテクニックはすごい。
だが忘れてならないのは、彼らは誰もがいちこであり、すべての視点はいちこの目を通して行われるということだ。
誰もが持つ自分フィルタのせいで、記憶は常に自分色に染まっている。しかし私たちは、いつでも自分フィルタのそれを見るしかないのだ。
逆に言えば、自分さえ変われば、あっという間に世界は変わる。
それに気がついた時、いちこのたどり着いた答えが、読者それぞれの真実の答えに変わるのかもしれない。
『脳内ポイズンベリー』著者の水城せとな先生から、コメントをいただきました!
<文・山王さくらこ>
ゲームシナリオなど女性向けのライティングやってます。思考回路は基本的に乙女系&スピ系。
相方と情報発信ブログ始めました。主にクラシックやバレエ担当。
ブログ「この青はきみの青」