『脳内ポイズンベリー』第5巻
水城せとな 集英社 \419+税
(2015年4月24日発売)
たとえば、街で知人を見かける。
さて、声をかけるか? かけないか?
そう考えた瞬間に誰でも、相手に対する好感度とか、どのくらいの知りあいかとか、久しぶりなのかそうじゃないのかとか、細かいけれども自分にとっては大事(と思われる)ことが頭をよぎるはずだ。
そしてこの『脳内ポイズンベリー』の主人公・櫻井いちこ(30)は、それがもっと顕著かつ大がかりなのである。
飲み会で会った、ちょっと気になる男子・早乙女亮一(23)を駅で見かけたいちこ。彼女の脳内では、総勢5名による壮絶な会議が繰り広げられる。
会議の面々は、議長の吉田(自ら風見鶏と称するほど多数派につく)、ポジティブな思考担当の石橋(偶然って運命だよ!)、ネガティブな思考担当の池田(後悔するわよ!)、瞬間の感覚担当のハトコ(おなかすいたなあ)、記憶・過去を振り返る思考担当の岸(手にする本はいちこの記憶の集大成)。
全員の主義主張がバラバラで、いちこの頭の中は大パニック。
そして最終的な多数決の結果や、その時たまたまマイクを持っちゃった担当のセリフを、ぽろっといちこは口にするのだ。
そしてこの理由により、いちこの発言はとりとめがなくなってしまったりする。
こと早乙女に関しては、ここまでずうっと脳内会議が大紛糾だった。
いちこの言葉が混乱しているうえに、早乙女も言葉が足りないタイプなので、いき違いも多い。お互い好きなのだけれど、何かがうまく噛みあわない。
さらに、社会的な立場の違いがこれに輪をかける。
いちこは、携帯小説に目を留められ、出版から映画化へとこぎつけて仕事は順調だ。
一方の早乙女はアーティストとはいえ、フリーターで食いつないでいる状態。
言ってはいけないこと、やってはいけないこと。逆鱗に触れるたびに、数が増えていく。
第5巻に至ってはついに、議長の吉田が「早乙女ルールをおさらいしよう」といいだしてしまった。
早乙女ルールを実践すると、たしかに無難には乗り切れるのだ。
「やなこと なにもおきなかった」……ただそれだけでほっとするハトコといちこ。でも、2人とも目が死んでいる。