リアリティレベルすらも大きく異なる雑多な面々が、妙な生活感(一例を挙げるならば、かわいらしいメイドの魔女が、裏では汚れ放題の部屋でネットゲームをしながら悪態をついているような)を備えたまま、ひとつの作品の内部で違和感なく共存してしまう……。
そんな破天荒な世界観からは、日常と非日常の融合した世界を描きだす、マジックリアリズム/ラテンアメリカ文学の潮流が思い出されるかもしれない。
とはいえもちろん、『ヴォイニッチホテル』がラテンアメリカ文学の名作群のような難解さを抱えた作品なのかといえば、そんなことはない。
重厚な文学の表情は――あるいはグロテスクになりかねない猟奇的描写や複雑に入り組んだ物語構造さえもが――、いかにも道満晴明らしいポップでスタイリッシュな筆致とかわいらしいキャラクターたち、ブラックでシュールなギャグにより巧みに中和されていく。
エキセントリックな世界観やキャラクターをライトに味わうことができるとともに、(ときには道満晴明の他作品まで参照しながら)読みこむほどに新たな発見があり、(そのタイトルどおりに)どこまでも解読し尽くせない奥行きをもあわせ持つ。
『ヴォイニッチホテル』とはいわば、マジックリアリズムとキャラクター表現/マンガ表現との幸福な出会いの場、あるいはその2つの道が交差した深夜の四つ辻に立つ者なのだ。END。
JUST AFTER。マジックリアリズムの代表作、ガルシア=マルケスの『百年の孤独』が全世界で3600万部売れているのだから、『ヴォイニッチホテル』もそうなるべきだと願っても、なんらおかしなことはないだろう。
『ヴォイニッチホテル』著者の道満晴明先生から、コメントをいただきました!
<文・高瀬司>
批評ZINE「アニメルカ」「マンガルカ」主宰。ほかアニメ・マンガ論を「ユリイカ」などに寄稿。インタビュー企画では「Drawing with Wacom」などを担当。
Twitter:@ill_critique
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