「“違和感”ですか? “恐怖”ではなくて」と訊ねると、
「はい、日常の“違和感”です。後からそれをホラー仕立てに創っていく感じで…」と答える伊藤先生。そして唐突に
「時たま ふと思うんですよ。“死”っていったい なんだろうって――…」とつぶやき、回想する。
それは伊藤先生が中学3年の時のことだった。ある朝、登校すると同級生が交通事故で死んだことを告げられる。
「悲しいとか恐いじゃなく とにかくショックでしたね」と回想する伊藤先生は、その瞬間から“違和感”について考え始める。
「昨日までみんなと同じように学校にいた仲間が この世のものでなくなってしまった」
「不思議と不条理」
「死体を見たワケでもない実感のなさと その時感じた違和感…」
「まだ生きていて ひょっこり現れたりして…」などとたわむれに思ってみたりするのだが、それが後々、何度死んでも殺されても蘇る絶世の美女「富江」へとつながっていく。
衝撃的でもなく、派手でもないエピソードだが、しかしこの日常感にこそ、“恐怖”というものの本質が垣間見える。
ホラー漫画家とはいえ、誰もが強い霊感を持ち、不可思議な出来事を経験しているわけではないのだ。
「先生はオカルト体験はありますか?」という問いに、犬木先生はこう答える。
「ふふ、読者からいちばん多く受けた質問ですけど 残念ながらありません」。
そしてこうつなげる。
「――ただ。」
「父を亡くし母を亡くし この歳になると しみじみ思うのよ――」
「前世もない 来世もない 死んだらおしまいって思うと ホラーより怖いなって…」
「幽霊がいるって 死後の世界があるって事でしょ? 人は霊を見ながらそこに 最後の最後に“希望”を見てるのかもしれないなァって――」。
ホラーマンガ界の縦と横のラインを俯瞰することのできる超一級の資料であると同時に、エンタテインメントとしても興味深く読める。
御大・楳図かずお先生をはじめ、花輪和一先生、高橋葉介先生や、はたまた美内すずえ先生、高階良子先生らの少女マンガ勢の「怪奇まんが道」もぜひ読んでみたいところだ。
続編を強く希望したい。
<文・小田真琴>
女子マンガ研究家、マンガレビュアー。学生時代に片思いしていた女子と共通の話題がほしかったから……という不純な理由で少女マンガを読み始めるものの、いつの間にやらどっぷりはまってついには仕事にしてしまった。「FRaU」(講談社)、「SPUR」(集英社)などの女性誌や「ダ・ヴィンチ」 (KADOKAWA)などで執筆。Webマガジン「サイゾーウーマン」にて「女子マンガ月報」を連載中。