「あの話題になっているアニメの原作を僕達はじつは知らない。」略して「あのアニ」。
このコーナーはアニメに限らず、映画、ときには舞台、ミュージカル、展覧会……などなど、様々なエンタメ作品も取り上げていく「このマンガがすごい!WEB」の新企画なのである!
今回、番外編として紹介するのは、海外ドラマ『SHERLOCK/シャーロック』の最新作。2014年にシーズン3まで放送された本作は、全世界に熱狂的ファンがいる、いわずと知れた人気作。そして、今年の元旦に英国で放送され、多くのファンが待ちこがれていた続編がついに、日本では明日19日(金)から劇場公開されるのだ!
この話題作『SHERLOCK/シャーロック 忌まわしき花嫁』のレビューはもちろん、コナン・ドイルの原作をはじめ、「このマンガがすごい!WEB」らしく、あわせて読みたいおすすめ小説・マンガ作品を紹介しちゃいましょう!
今回紹介するのは、『SHERLOCK/シャーロック 忌まわしき花嫁』
2010年、英国BBCにて新たなシャーロック・ホームズのドラマが始まった。
その名も「SHERLOCK/シャーロック」。
ヴィクトリア朝ではなく現代が舞台なのだが、シャーロック・ホームズをコールド・スリープやタイムトラベルさせるわけではなく、ホームズの子孫を主人公にするわけでもない。「ホームズやワトソンが現代人だったら?」という非常に単純な、それでいてコロンブスの卵的な発想によるものだった。
製作陣のマーク・ゲイティスとスティーヴン・モファットは、人気ドラマ「ドクター・フー」に関わっているためもあり、ドラマ作りが見事。しかも2人とも熱心なホームズ好きなため、シャーロッキアンも納得の出来となった。エピソード1話が1時間半、しかもみっちりと濃密で、毎話まるで映画のようなクオリティ。それゆえアメリカのドラマのように量産されず、シーズンひとつあたり3エピソードしかない。シーズンとシーズンの間も、ずいぶんと待たされる。にもかかわらずファンは離れるどころか増える一方。それほどまでにおもしろいのだ。現在のホームズ・ブームを下支えするもっとも重要なコンテンツと言っても過言ではあるまい。
シャーロック役のベネディクト・カンバーバッチ、ジョン役のマーティン・フリーマンも本作で大人気となり、映画に舞台にと引っ張りだこだ。
そのシーズン3とシーズン4の狭間に、クリスマス・スペシャル・エピソードが製作されることになった。しかも「現代化」がウリだった「シャーロック」の、ヴィクトリアン版だという情報が流れた。
「ドクター・フー」がからんで時間旅行するという説も唱えられたが、それは公式に否定された。では、ヴィクトリアン版として独立した作品なのか。
――現物を見るしかなかった。
このスペシャル版は、TV放映だけでなく、世界中で劇場公開もされることになり、さらに話題を呼んだ(英国でのTV放映は2016年1月1日。欧米では年末年始までクリスマス・シーズンである)。そしていよいよ2016年2月19日、日本でも劇場で特別公開。蓋を開けてみれば、これはやはりあくまで「シャーロック」の一作品であり、カンバーバッチとフリーマンがヴィクトリア朝のホームズ&ワトソンを演じた、というだけのものではなかった。「シャーロック」シーズン3と4をつなぐ「シーズン3.5」とでも言うべき位置付けの作品だったのだ。
ネタバレしないために詳述は避けるが、「シャーロック」をまったく知らずに見に行かない方がいい。なるべく、シーズン3まで観てからがベストだ。
今回の新作での一番の元ネタは、タイトルにも使われている“語られざる事件”。「マスグレイヴ家の儀式書」でホームズが、事件記録の入っているブリキ箱の中から取り出して、ワトソンに見せた「内反足のリコレッティとその憎むべき細君の事件」である。
さらにドラマのファンにとってもうれしいことに、シャーロックとジョンはもちろんのこと、レストレード、マイクロフト、メアリら、おなじみの面々も登場するので、それぞれにも注目してほしい。
今回、〝再ヴィクトリアン化〟とでも言うべき設定にあたって、スタッフはベイカー街221Bをはじめ、19世紀のロンドンを丁寧に作りこんだ。劇場公開では、そのガジェットをゲイティスが紹介してくれる特典映像も同時上映される。
観たあとに、ますますシーズン4がどう続くのか、楽しみで仕方がなくなる作品である。
ドラマ特別編『SHERLOCK/シャーロック 忌まわしき花嫁』を観たあとは……
みなさん、作品レビューは楽しんでいただけましたか?
次はいよいよ、みなさんお待ちかねのオススメ小説・マンガの紹介です!
『緋色の研究』ほか
『緋色の研究 新訳版』
アーサー・コナン・ドイル(作)、深町眞理子(訳) 東京創元社(創元推理文庫) ¥620+税
『SHERLOCK/シャーロック」を最大限に楽しむには、アーサー・コナン・ドイルによる原作版シャーロック・ホームズ(いわゆる「正典」)を読んでおくことが一番だ。
『緋色の研究』は、その第一作。ホームズとワトソンの出会いも描かれている。誰が紹介したのか、ホームズは最初なんと言ったのか……などなど。本書に始まる正典は全部で9冊。たいした分量ではないので、通読をオススメする。作中にタイトルやさわりだけ紹介される「語られざる事件」まで覚えられたらベスト。
『SHERLOCK ピンク色の研究』ほか
『SHERLOCK ピンク色の研究』
スティーヴン・モファット/マーク・ゲイティス(脚本)Jay.(画) KADOKAWA ¥560+税
ドラマ『SHERLOCK/シャーロック』のコミカライズ。一冊が1エピソードに相当し、現在、シーズン1エピソード3に当たる『SHERLOCK 大いなるゲーム』まで刊行。
ストーリーも忠実、ビジュアルもドラマのイメージどおり。「シャーロック」ファンの間では「急いでストーリーを追ったりシーンを探すのに最適」という声が上がっている。また英語と対訳になっている「バイリンガル版」も出ている(こちらは2まで)。今後もどんどん出していただきたい!
『ジョン、全裸連盟へ行く』
『ジョン、全裸連盟へ行く』
北原尚彦 早川書房(ハヤカワ文庫) ¥620+税
「SHERLOCK/シャーロック」と同じ、現代版パスティーシュ。これだけでも楽しめるが、ドラマを見てからだとそのイメージで読めるので、さらに楽しめる。また基本となるネタが正典由来なので、その元作品を読んでおいた方がいいだろう。元ネタは、「全裸連盟」の場合は「赤毛連盟」といった具合に、タイトルから簡単にわかる。
『SHERLOCK/シャーロック』のシーズンとシーズンのはざま、飢餓感にかられている際に、渇きをいやすのに最適。
さらにもう1冊! 『SHERLOCK/シャーロック』最新作の劇場公開と同じ2月19日に、宝島社から『シャーロック・ホームズ 完全解析読本』が発売!
『シャーロック・ホームズ 完全解析読本』
北原尚彦(監修) 宝島社 ¥1200+税
(2016年2月19日発売)
こちらは『SHERLOCK/シャーロック』とコナン・ドイルの「正典」との徹底比較&解説をはじめ、ホームズ初登場「緋色の研究」から引退作「最後の挨拶」まで60の正典を事件現場ビジュアルとともに完全解析したものなど、シャーロッキアン必携の決定版。
上記で紹介したオススメの小説・マンガに合わせて、こちらもぜひ一読していただきたい!
<文・北原尚彦>
1962年東京生れ。青山学院大学理工学部物理学科卒。
小説『シャーロック・ホームズの蒐集』(東京創元社)、『ジョン、全裸連盟へ行く』(ハヤカワ文庫)他。古書エッセイ『SF奇書コレクション』(東京創元社)、『古本買いまくり漫遊記』(本の雑誌社)。翻訳『ドイル傑作集』全5巻(共編訳/創元推理文庫)他。アンソロジー編纂『シャーロック・ホームズの栄冠』(論創社)他。