「あの話題になっているアニメの原作を僕達はじつは知らない。」略して「あのアニ」。
アニメ、映画、ときには舞台、ミュージカル、展覧会……などなど、マンガだけでなく、様々なエンタメ作品を取り上げていく「このマンガがすごい!WEB」の新企画がスタート!
そう、これは「アニメを見ていると原作のマンガも読みたいような気もしてくるけれど、実際は手に取っていないアナタ」に贈る優しめのマンガガイド。「このマンガがすごい!」ならではの視点で作品をレビュー、そしてもちろん、原作マンガやあわせて読みたいおすすめマンガ作品を紹介します!
今回紹介するのは、『僕だけがいない街』
三部けいが月刊マンガ誌「ヤングエース」(KADOKAWA刊)にて、2012年7月号から連載している『僕だけがいない街』が、アニメ化された。
コミックスの第1巻発売時から応援しているファンとしては、今回のアニメ化(さらには、実写化も!)は、まさに待望というべき。
まず「おもしろい!」と思ったのは、主人公・藤沼悟の声優のダブルキャスト。
昭和63年にタイムスリップして10歳の子供に戻った悟。29歳の悟は満島真之介が、10歳の悟は土屋太鳳が演じており、内面は大人だが外見は子どもだという悟の状況が、こうしたダブルキャストにより際立っている。
コミックでは吹き出しの形の違いで、人に向けての声かモノローグかを区別するが、アニメの場合は会話は土屋太鳳の声で、モノローグは満島真之介の声となるので、よりわかりやすい(そして、心の声が思わず口をついたときには、2人の声がかぶって出るわけだ!)。
また、悟の「リバイバル(再上映)」もアニメになってよりサスペンスフルになった。
ちなみに、「リバイバル」とは「悪い事」が起こる直前、1分から5分くらい前に戻って何度も同じ光景を見る現象のこと。もともと映像映えのする現象ではある。
コミックスを読んでいるときには、何度も読み返して、悟とともに「おかしなところはないか」を探していたが、アニメになると「読み返す」というわけにいかないので、悟と同じ時間で違和感に気づけるかどうかの勝負(?)になるわけだ。こうした緊張感、臨場感は、劇場で公開される実写版ではさらに増すのではないだろうか。
悟は、事件が起こった時期や被害者は知っているものの、どうすれば防げるかは、自分で考えなければならず、その試行錯誤ぶりがおもしろさを生んでいる。そして、それは原作読者も同じこと。とはいえ、原作から設定が変わっている部分もあったりして、先々まで見とおせるわけではない。
そういうふうに物語をつくりあげているところが、伊藤智彦監督のうまいところで「内容を知っているからね」と油断していると、足元をすくわれるだろう。原作を読んでいても、アニメの今後の展開から目が離せない。
『僕だけがいない街』のアニメを観たあとは……
みなさん、アニメレビューは楽しんでいただけましたか?
次はいよいよ、みなさんお待ちかねのオススメマンガの紹介です!
原作マンガはもちろん、『僕だけがいない街』が大好きなアナタが興味がわきそうなマンガ作品を紹介しちゃいますよっ。
『僕だけがいない街』三部けい
『僕だけがいない街』第1巻
三部けい KADOKAWA ¥560+税
(発売中)
これまで書いたとおり、アニメ化に加え、3月19日に実写映画に公開を迎える本作。原作も当然チェックすべきだ。3月4日発売の「ヤングエース」4月号で、最終回を迎えることも発表された。
第1巻が発売されて以降、3年連続で『このマンガがすごい!』オトコ編にランクインしている大人気サスペンス。「悟」の目線でアニメを楽しむためにも、ぜひ手に取ってみてほしい。
『白暮のクロニクル』ゆうきまさみ
『白暮のクロニクル』第1巻
ゆうきまさみ 小学館 ¥552+税
(2014年1月30日発売)
2015年にデビュー35周年を迎えた、ゆうきまさみの最新作。日本には、じつはオキナガと呼ばれる長命者がいて……という設定のミステリマンガだ。
長命者を管理する厚生労働省の担当官・伏木あかりと、オキナガの雪村魁が、オキナガが絡んだ事件に挑む。少年の頃にオキナガとなった魁は、その外見のままで70年近く生き続けているため、その外見と中身とのギャップ感は、悟よりも大きいことだろう。
個別の事件もさることながら、魁が追い続ける12年ごとに猟奇殺人を犯す「羊殺し」の謎は、読者の興味をそそるはず。
『夢喰い探偵―宇都宮アイリの帰還―』義元ゆういち
『夢喰い探偵―宇都宮アイリの帰還―』第1巻
義元ゆういち 講談社 ¥429+税
(2015年12月17日発売)
『僕だけがいない街』のヒロイン・片桐愛梨は、夢を実現するために悟と同じピザ屋でアルバイトをしていたという設定だが、本作の主人公・宇都宮アイリも、「名探偵になる」という夢を心の支えにしてきた少女だ。
提示される謎は「校長の盆栽を壊したのは誰か?」「御神木の“呪い”はほんとうか?」といった高校を舞台にしたミステリ。伏線もしっかり張られた正統派の本格ミステリで、アイリが「なろうか 名探偵に!」と宣言したときには、読者にもアイリと同じ真相に到達できるだけのデータが提供される。
2015年12月に第1巻が出たばかりなので、ぜひご一読を。
最後にもうひとつおまけ!
小説『七回死んだ男』西澤保彦
『七回死んだ男』
西澤保彦 講談社 ¥629+税
(1998年10月15日発売)
ミステリ作家・西澤保彦の出世作。1995年の刊行時にはSFとミステリの融合が話題になった。
同じ時間が9回繰り返す特異体質の持ち主の主人公・大庭久太郎が、ちょうどその時間帯に発生した祖父の殺害事件を阻止せんと奮闘する。前回の反省を踏まえて対策を立てたとしても、また別の犯人が現れて、祖父は殺害されてしまう。
こうしたドタバタを繰りかえすうち、その回の出来事が確定となってしまう9回目が近づいてきて……。
自分の特異体質は胸に秘め久太郎が孤軍奮闘する様子は、悟のがんばりに通じるものがある。
<文・廣澤吉泰>
ミステリマンガ研究家。『名探偵コナンMOOK 探偵女子』(小学館)にコラムを執筆。現在発売中の「ミステリマガジン」2016年1月号(早川書房)にミステリコミックレビューが掲載。同じく現在発売中の『2016本格ミステリ・ベスト10』(原書房)にてミステリコミックの年間総括記事等を担当。