2016年、「このマンガがすごい!WEB」は新企画をスタートします!
その名も……
その名も……
……あ、あれ? あれれれ?
まさか、タイトルが決まっていない……だと!?
それなのに、新企画がスタートするなんてことが……!?
そう、あるんです。あってしまったのです。
第1回目の更新で華々しく紹介しようとしていた映画『スター・ウォーズ/フォースの覚醒』の公開から早1カ月……。もうこれ以上引き延ばせない……!
待ってくれているかもしれないみなさんのために、(編集長にないしょで)もう公開しちゃいます!
この企画は……、今後は映画やアニメなど、マンガ以外のコンテンツを「このマンガがすごい!WEB」的な視点で取り上げていく企画になる……はず。
その全貌は次週明らかになるかもしれない(なるはず!)なので、ごうご期待!
とりあえず、今回は新企画第0回として、映画『スター・ウォーズ/フォースの覚醒』を紹介します!
今回紹介するのは、『スター・ウォーズ/フォースの覚醒』
スクリーンの幕が上がるや、いきなり本編の上映スタート。それが『スター・ウォーズ』シリーズの初回上映で、ほとんどの映画館で守られ続けてきたお約束だ。
新作を少しでも、1秒でも早く観たい。ほかの作品の予告編をはさむことなく! ファンにとっては映画を超えた“祝祭”なのだ。
とはいえ、今回の『スター・ウォーズ/フォースの覚醒』(以下『フォースの覚醒』)は期待と不安がせめぎ合っていた。2012年にディズニーがルーカスフィルムを買収し、『スター・ウォーズ』に関する権利も取得。『スター・ウォーズ エピソード6/ジェダイの帰還』の30年後を舞台にした『フォースの覚醒』の制作が発表され、新たなる三部作が始まるとのニュースに、ファンの心は揺れた。
監督はJ・J・エイブラムスという続報は“新たなる希望“だった。映画『スタートレック』のキャストを一新しつつ、数十年ものシリーズの時間軸に矛盾なくつなげた才能の持ち主だ。彼ならやってくれるはず……だが、全世界から期待される『スター・ウォーズ』の重圧を跳ね返せるのか。
砂漠の惑星・ジャクーで廃品回収を営むレイ。誰かが迎えにくるのを待っている彼女は、さまよっていたドロイドのBB-8を助けて行動をともにする。BB-8は行方不明になった伝説のジェダイ、ルーク・スカイウォーカーの居場所を伝える地図データを託されていた……。
序盤のあらすじは『スター・ウォーズ エピソード4/新たなる希望』(以下『新たなる希望』)のプロットそっくりだ。物語の背景にあるファースト・オーダー(銀河帝国の残党)とレジスタンス(私設軍隊)の対立は、圧政を敷く銀河帝国と反乱同盟軍、フォースのダークサイドとライトサイドの戦いをふまえている。前作でドロイド(R2-D2)に託された宇宙要塞デス・スターの極秘設計図が、ルークの地図に入れかわっただけで、今作の導入部は「リメイク」とすら言えるかもしれない。
それは古くさいことを意味しない。正義と悪の勢力が世界の命運に関わる「お宝」を奪い合い、若き戦士が命を賭ける冒険活劇はいつだってワクワクする。「王道」は永遠に古くなんてならない。
「王道」でなければできない挑戦もある。女性主人公はシリーズ初の試みだし、その相棒となるフィンも旧作の設定を引き継ぎつつ、深く掘り下げた新キャラクターだ。帝国軍の個性なき兵士だったストームトルーパーが、故郷から拉致された悲しい過去と、人を殺したくない感情を持ったのだから。
彼ら2人は現代ドラマに通用するチューニングであり、古参のファンにとっては驚きに満ちている。
彼らの前に立ちはだかる強敵のカイロ・レンも魅力的だ。黒いマスクとコスチュームをまとったコワモテかと思いきや、ダース・ベイダーのマスク(らしき残がい)を崇拝するベイダーマニアで、苛つくことがあればライトセーバーを振りまわしてキレまくる。この中二病かつ情緒不安定っぷりは、ダークサイド随一の萌えキャラだ!
早くから明かされてるように、旧作の英雄にしてよきアニキだったハン・ソロも、「我が家に帰ってきたぞ」とばかりに再登場する。歳を重ねて変に丸くなったりせずに、また借金返済を滞らせて取り立て屋に押しかけられるダメさがたまらない。劇中のわずかな時間で「あの戦争のあと、元の裏稼業に戻っていた」ことを描ききっているのだ。
足かけ40年にもわたる『スター・ウォーズ』シリーズは、旧作ファンの「懐かしい」と初見の観客にとっての「新しい」がともに求められるエンタメの大器だ。ハン・ソロの愛機ミレニアム・ファルコン号の数十年エンスト(?)してたわりに動きがよすぎる空中戦や、破壊兵器スターキラー・ベースでの「デス・スターのみぞでドッグファイト」を再現した戦いは、新旧バランス感覚が徹底している。2010年代のハイテクと莫大な予算で「70年代末のスペースオペラが持っていた空気」すら再現させているすごみがここにある。
「新しい」と「懐かしい」をみごとに両立した『覚醒』。まるで歌舞伎を最新技術で強化したスーパー歌舞伎だが、本作はまだまだ「顔見世」にすぎず、おそらく本気を出していない。主人公のレイとフィンも、敵役のカイロ・レンも若くて未熟であり、まだまだ伸びしろがある。
新たなる三部作は彼らとともに「成長するスター・ウォーズ」になりそうだ。
映画をもっと楽しみたい人はこれをチェックすべし!!
映画『隠し砦の三悪人』(監督:黒澤明)
『隠し砦の三悪人 東宝DVD名作セレクション』
東宝 ¥2500+税
(2015年2月18日発売)高貴な姫を守りながら強大な敵(帝国)というあらすじが、『新たなる希望』と同じであり、金ピカの通訳用ドロイド「C-3PO」と、その相棒「R2-D2」は、本作に登場する百姓「太平」と「又七」がモデルだと、ジョージ・ルーカス本人が語っている。
ジェダイ=時代劇ということで、ジェダイは侍の剣術と精神、ダース・ベイダーは侍の鎧兜がモチーフとされる。黒澤明の映画が大好きなルーカスがオビ=ワン・ケノービ役を三船敏郎(本作や『七人の侍』に主演)にオファーして、断られた話は有名である(その後、なんとベイダー役の打診もあったとか!)。
寺沢武一『コブラ』
『コブラ』第1巻
寺沢武一 メディアファクトリー ¥714+税
(2005年8月23日発売)異形の宇宙人たちがたむろする酒場での乱闘騒ぎなど、『スター・ウォーズ』を思わせるシーンが多いが、読み切りでの初登場は1977年で、『新たなる希望』と同じ年だった。
『スター・ウォーズ』の影響を受けたというより、同じエンタメ作品を源流にした魂の兄弟だろう。第1話で、人気SF映画『トータル・リコール』の原作として知られるフィリップ・K・ディックの短編「追憶売ります」へのリスペクトを示した『コブラ』は、日本が世界に誇る最強のSFコミックだ!
最後にもうひとつおまけ!
藤子・F・不二雄「裏町裏通り名画館」
『藤子・F・不二雄大全集 SF・異色短編』第3巻
藤子・F・不二雄 小学館 ¥1,600円+税
(2012日4月25日発売)漫画家にも熱狂的なファンの多い『スター・ウォーズ』シリーズだが、あの藤子・F・不二雄先生も、そのうちのひとり。
『ドラえもん』にてパロディエピソード「天井うらの宇宙戦争」(悪役の名前は、常にあっかんべーをしている「アカンベーダー」!)を執筆したことでも知られているが、今回紹介するのは短編「裏町裏通り名画館」。主人公がおとずれたさびれた映画館で上映していたのは、作品発表当時公開直後だった『南極物語』と『スター・ウォーズ』……ではなく、なんと『北極物語』と『ヌター・ウォーズ』!その劇中劇『ヌター・ウォーズ』の内容はというと、宇宙の片田舎の惑星で平和に暮らしていた主人公の木こり・ヨサークが、銀河を支配する帝国軍に兵士として召集され、親友であるタゴーサクの死という悲劇をキッカケに、ヨサークは反乱軍との死闘に見を投じていく……というもの。
『新たなる希望』の戦いを帝国軍サイドからの視点で(第二次世界大戦の日本軍の要素を取り入れつつ)見たらどうなるか……? というアイデア作品なのだが、このヨサークというキャラクターの持つ背景、今回の『フォースの覚醒』における元ストーム・トルーパーのフィンと(決断こそ違えど)そっくり!
ぜひ、『新たなる希望』と最新作『フォースの覚醒』を鑑賞してから読んでみよう!
ちなみに、「このマンガがすごい!WEB」ではほかにもこんな作品を紹介しています。ぜひ読んでみてください!
『スター・ウォーズ:スカイウォーカーの衝撃』 の紹介はコチラから!
『ダース・ヴェイダーとルーク(4才)』の紹介はコチラから!
<文・多根清史>
『オトナアニメ』(洋泉社)スーパーバイザー/フリーライター。著書に『ガンダムがわかれば世界がわかる』(宝島社)『教養としてのゲーム史』(筑摩書房)、共著に『超クソゲー3』『超ファミコン』(ともに太田出版)など。