365日、毎日が何かの「記念日」。そんな「きょう」に関係するマンガを紹介するのが「きょうのマンガ」です。
12月18日は『スター・ウォーズ/フォースの覚醒』公開日。本日読むべきマンガは……。
『ダース・ヴェイダーとルーク(4才)』
ジェフリー・ブラウン (著) 富永晶子(訳) 辰巳出版 ¥1,200+税
本日いよいよ、ドでかい映画のお祭りが始まった。
そう、『スター・ウォーズ』シリーズ最新作、エピソード7『スター・ウォーズ/フォースの覚醒』の公開日だ。
劇場作品の初出としてはエピソード3から10年ぶり、エピソード6の後年譚という意味ではじつに32年をへての続編ということになる(外伝『イウォーク・アドベンチャー』2部作やアニメシリーズは途中にあったけどね)。
『スター・ウォーズ』初期三部作、つまりエピソード4~6の魅力は、銀河の平和をめぐる壮大な戦記に、ルーク・スカイウォーカーとダース・ヴェイダー(アナキン・スカイウォーカー)の父子が対峙する一家族単位の小さなドラマが直結するというスケール構造から生まれている。
今回は、そのミクロな父子関係をとてもユニークな形で抽出した『ダース・ヴェイダーとルーク(4才)』という本を紹介したい。
著者は、1コママンガを主とするカートゥーン作家で、グラフィック・ノベル作者でもあるジェフリー・ブラウン。
彼が手がける一連の『スター・ウォーズ』ものは日本の書店だと絵本コーナーに置かれるが、セリフはフキダシで書かれ、2コマ以上にコマを割ったページもちょくちょく混ぜてあるため、一般的にいう「マンガ」に半分またがっている。
さて、そんな絵本マンガである本作は、素朴にかわいらしい絵柄のダース・ヴェイダーが4歳児のルークの子育てに毎日いそしむ姿をつづるほのぼの日常コメディだ。
「エピソード3.5」と称し、フォースの暗黒面に堕ちてヴェイダーになったアナキンが息子と2人暮らしをしながら、料理をつくったり、ともにサッカーをして遊んだり、誕生日のプレゼントを買ってきては自分でラッピングして贈ったりする。
父子2人でソファに寝そべり、腕枕でルークに添い寝してやるヴェイダーパパの所帯じみた愛らしさ!
これはなんだろう、いわゆる“ギャップ萌え”というやつでしょうか。
エピソード5で「アイム・ユア・ファザー(私はお前の父だ)」と衝撃の事実を告げる名場面があるが、本作においてヴェイダーはただのファザーではなくシングルファザーとしてがんばっている。
そして、そこに、ただ笑えるだけではないしみじみした味がこもっているのだ。
映画原典において、アナキン・スカイウォーカーは妻を失い、子どもを捨てて復讐の修羅道へ突き進んだ男である。
そんな彼が、ひとりのよき父親として息子とともにすごすのは、ありえたかもしれないがみずから切り捨ててしまった豊かな可能性の時間だ。
この絵本マンガでは、その失われた可能性が、野心に燃える帝国軍の暗黒卿ダース・ヴェイダーという業を抱えた姿のまま実現されている。
「そして父と息子として共に銀河を支配するのだ!」
「そしたらおやつくれる?」
キャラクターを壊すのではなく、原作を守りながら原作のなかにあった可能性を重ねることで本作のヴェイダーとルークは父子関係を育んでいる。
そのぶん2人が原作では叶えられなかったものが強く浮き彫りとなり、せつない気持ちにもさせられるのだ。
ちなみに、そうした誠実なつくりが評価され、本作はちゃんとルーカスフィルム公認で刊行されているとのこと。
映画の新三部作では、今度はルークやハン・ソロが親世代として役割を果たしていくことになる。
それを見るにあたり、この絵本コミックを読んで『スター・ウォーズ』における父子関係という要素の大切さを再確認してみてはいかがだろうか。
<文・宮本直毅>
ライター。アニメや漫画、あと成人向けゲームについて寄稿する機会が多いです。著書にアダルトゲーム30年の歴史をまとめた『エロゲー文化研究概論』(総合科学出版)。『プリキュア』はSS、フレッシュ、ドキドキを愛好。
Twitter:@miyamo_7