こちら側の世界と異世界のように、居酒屋のなかにも2つの“世界”がある。カウンターを隔てた、厨房と客席という空間だ。
こちらのコミカライズでは、カメラは厨房のなかにあり、「のぶ」大将の矢澤信之と看板娘の千家しのぶの視点から描かれている。
市場のお店めぐりをすれば“出会い”あり。すね肉の塩漬けロースト、レバー団子のスープ、じゃがいもとベーコンのオムレツ……異世界なりの歴史の上にある食文化が花開いていて、日本食は「前例がなくもの珍しい」というだけ。
なかには生卵のように、現地の食習慣では恐れられるものもあるから、無条件に受け入れられるわけではない。
そうして持ち帰った食材は、新たな料理に“転生”する。
鹿肉はヨーグルトに漬けてミンチにして衣を付けてカラリと揚げ、メンチカツの出来上がり。ジューシーな味わいのなかに、2つの文化が次元を超えて“交流”しているのだ。
異世界と表の入り口がつながって“開店”した居酒屋「のぶ」は町の一部でもある。
そのため「居酒屋料理のインパクト」からはみ出した人と人との交流もある。
老婦人に「うちにお嫁に来ない?」としつこく口説かれて困るしのぶ。弟妹のために盗みを働くまでに貧しかった新たな店員・エーファが、まかないのオムライスに感じる人情のあたたかさ……異世界同士の出会いから生まれた人間ドラマも、また滋味豊かでコク深い。
その店がいつできたのか、いつから通っているのか。それを意識せず足を運ばずにはいられない「いい店」の条件は、お客さんを想う店があって、店を想うお客さんがいてくれること。
2つの異世界が遭遇した特異点は、文化や習慣を超えた「おいしい」って笑顔があふれたお店なのだ。
そんな「笑顔」が胸をほんのりあたたかくする方向のコミカライズなので、深夜でも飯テロの危険は少なくて、メタボを気にせず読みやすい。
ただし、熱々のソーセージは注意! ビールまで欲しくなる魔のページだけに、目をつぶってパラパラ飛ばすことをお勧め……と、失敗した経験者として言っておきたい。
コミック特典情報
とらのあな様
・くるり先生描きおろしクリアファイルプレゼント
・くるり先生描きおろしイラストカードプレゼント
メロンブックス様
・蝉川先生描きおろしssペーパー『バニラアイスのパンケーキ』プレゼント
ゲーマーズ様、COMIC ZIN様
・蝉川先生描きおろしssペーパー『古都のパフェ』プレゼント
書泉グランデ、ブックタワー様
・くるり先生描きおろしペーパープレゼント
・複製原画展開催
・サイン本販売
※すべて数に限りがございます。品切れの際、ご容赦ください。
<文・多根清史>
『オトナアニメ』(洋泉社)スーパーバイザー/フリーライター。著書に『ガンダムがわかれば世界がわかる』(宝島社)、『教養としてのゲーム史』(筑摩書房)、共著に『超クソゲー3』、『超ファミコン』(ともに太田出版)など。