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うすた京介と「少年ジャンプ+」編集部がTwitterでガチゲンカ!? 漫画家と編集者の関係性とは……【B級ニュース】

2016/05/17


複雑化する現代。
この情報化社会では、日々さまざまなニュースが飛び交っています。だけど、ニュースを見聞きするだけでは、いまいちピンとこなかったりすることも……。
そんなときはマンガを読もう! マンガを読めば、世相が見えてくる!? マンガから時代を読み解くカギを見つけ出そう! それが本企画、週刊「このマンガ」B級ニュースです。

今回は、「漫画家と担当編集者のネットファイト、そのゆくえ」について。


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『集英社文庫 ピューと吹く! ジャガー』 上
うすた京介 集英社 ¥650+税
(2015年8月18日発売)

漫画家と担当編集者のあいだでケンカが勃発ッ!?

漫画家・うすた京介と「少年ジャンプ+」の担当編集者が、なんとツイッター上で口論を繰り広げてしまったのである。
うすた京介は『セクシーコマンドー外伝 すごいよ!!マサルさん』『ピューと吹く!ジャガー』などを手がけてきた当代随一のナンセンス・ギャグ作家。現在は集英社のマンガ誌アプリ「少年ジャンプ+」で『フードファイタータベル』を連載中だ。

その最新話(第28話)が更新されたことをツイッターで通知する際に、担当編集によるキャッチコピーを「史上最低レベルの手抜きなアオリ」と揶揄したのである。
すると担当編集者は、「少年ジャンプ+」の公式ツイッターで「うすた先生がもっと早く原稿をあげてくれれば、練ったアオリが考えられる」と応戦。

すわ炎上案件かと思いきや、両者の抗争は、お互いに7ページずつマンガを描いて「少年ジャンプ+」上で公開し、どちらがおもしろいかを読者に判断してもらうことに。
つまりこの口論は「企画ありきのブック(台本)」であり、むしろ作家と編集のあいだに信頼関係があるからこそ成り立つ“仕込み”だったわけだ。

「なんだ、仲いいじゃねぇか」ってなモンである。

とはいえ、作家と編集の信頼関係はたしかに重要だ。
「このマンガがすごい!」本誌やWEBで漫画家へのインタビューさせてもらう際には、担当編集者も取材に同席してくれる。作家と編集の間柄は、時には友人同士のようであり、あるいは先輩後輩、同志、ビジネスパートナー……と、お互いの年齢や立場によって関係性こそ異なるものの、両者の絆を垣間見ることができる。やはり作家と編集の信頼関係なくしては、ヒット作は生まれないのだ。

そして信頼関係があればこそ、作家も遊び心を発揮して、作品のなかに編集者を描くこともある。シリアスなストーリーマンガでは難しいかもしれないが、ギャグマンガやルポルタージュマンガでは、見かけたこともあるのでは?

今回は、そんな「編集者が作品内に顔出しする作品」をピックアップして紹介していく。
編集者が出てくる作品は内輪受けになりがちだが、そんな常識を軽く飛び越えていくような、様々な「作家と編集の関係」を見ていこう。


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『レッツラゴン』第1巻
赤塚不二夫 復刊ドットコム ¥1,900+税
(2013年9月27日発売)

マンガに登場する編集者の草分け的な存在といえば、もちろん赤塚不二夫『レッツラゴン』に登場する武居記者だ。モデルとなった武居俊樹氏は「少年サンデー」の編集者として赤塚不二夫を担当し、『おそ松くん』や『もーれつア太郎』などに携わった。

『レッツラゴン』にはほぼ毎回のように登場し、赤塚不二夫に暴言を吐いたり、殴りつけたり、とてつもないアクの強さを発揮したのはオールドファンの記憶に鮮明に焼きついていることだろう。
ある意味では、もっとも赤塚に愛された編集者といえるのではないだろうか。両者の関係は、同志といえるものかもしれない。

のちに武居記者は、35年に及ぶ赤塚不二夫との交流を綴った『赤塚不二夫のことを書いたのだ!!』(文春文庫)を出版。同作品は実写映画化され(タイトルは『これでいいのだ!!映画★赤塚不二夫』)、赤塚不二夫役には浅野忠信、武居記者をモデルにした編集者役には堀北真希が起用された。
そのキャスティングだけでも「シェ――!」である。

ちなみに武居記者のことを歌った曲が『「おそ松くん」とアカツカ怪作劇場』収録の「山本ケシズミ」の回に登場する。
歌っているのは武居記者をモデルにしたクソタケイムシだ。


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『ツール・ド・本屋さん』第1巻
横山裕二 小学館 ¥600+税
(2013年2月12日発売)

「少年サンデー」の現在の編集長は市原武法氏だ。
市原氏は以前は「ゲッサン」の編集長を務めていたが、「サンデー復権」の重責を期待され、昨年7月に「少年サンデー」編集長に就任した。
2015年の「少年サンデー」38号に所信表明を掲載。新編集長が編集方針をつまびらかにするのは異例のことであった。

そんな市原氏が作中に登場するのが横山裕二『ツール・ド・本屋さん』である。
“ゲッサン編集長市原”に命じられた作者が、自転車で全国の書店をめぐり、宣伝用POPを描く旅に出るルポマンガだ。市原氏は「主人公を様々な地へ送りこむ悪の総帥」として登場。有無を言わさぬ押しの強さで、主人公である作者に指令を命じるのであった。

若手や新人作家からすれば、ちょっと怖い兄貴分といったところだろうか。


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『ブラック・ジャック創作秘話 ~手塚治虫の仕事場から~』第1巻
宮﨑克(作) 吉本浩二(画) 秋田書店 ¥552+税
(2011年7月8日発売)

マンガ界きっての名物編集長といえば、「少年チャンピオン」2代目編集長の壁村耐三氏だ。
「少年チャンピオン」を少年誌ナンバーワンに押しあげ、手塚治虫後期のヒット作『ブラック・ジャック』を立ち上げたことでも有名な、マンガ界のレジェンドである。

『ブラック・ジャック創作秘話 ~手塚治虫の仕事場から~』(宮﨑克・作、吉本浩二・画)では、ヤクザのようなルックスで登場。編集部ではウイスキーを湯飲みに注いで生のままで飲み、手塚治虫の原稿さえ放り投げる強烈なキャラクターだったので、本作で初めて壁村氏を知った若い世代のマンガ好きは衝撃を受けたのではないだろうか。
作中の「てめぇ刺すぞ!!」は最高のセリフだ。

なお、壁村氏は『怪奇まんが道』(宮﨑克・作、あだちつよし・画)にも登場。心霊現象を恐れる作家に対し、なにか起きたら「俺を呼べ」と豪語するあたりは、侠客のようでもある。

また、壁村氏は永井豪『激マン!』第4巻に「少年チャンポン」の編集長の壁山鯛三、あるいは藤子不二雄A『愛…しりそめし頃に…』(『まんが道』の続編)の第1集に壁岩大造としても登場している。手塚治虫が『ぼくのそんごくう』執筆中に行方をくらませ、赤塚不二夫、石ノ森章太郎、藤子・F・不二雄(作中では才賀茂)、藤子不二雄A(作中では満賀道雄)の4人が代筆することになるのだが、そんなウルトラCの離れ業を発注したのが壁岩氏であった。

複数の作品から総合的に類推するに、壁村氏が編集長を務める編集部は、まさに「壁村組」といったところか。


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『やぶれかぶれ』第1巻
本宮ひろ志 集英社 ¥360+税
(1983年1月発売)

なんだか編集者版『アウトレイジ』みたいになってきたので、ここらで穏やかそうな人物を紹介しよう。

秋本治『こちら葛飾区亀有公園前派出所』の初代担当編集者にして、現在の集英社の代表取締役である堀内丸恵氏だ。
堀内氏は本宮ひろ志『やぶれかぶれ』のなかでレギュラーキャラクターとして登場する。本作は本宮ひろ志が1982(昭和57)年の参議院議員選挙に出馬すると宣言するところから始まり、その顛末をドキュメンタリーとして誌面で報告する異色作だ。7月に参議院議員選挙が控えてる今年に読むには、うってつけの作品ともいえるだろう。

作中で本宮は目白の田中角栄邸を訪問して「こんちワ――ス 田中の角栄さん!!」と叫んで警察に取りおさえられたり、本宮が銀座のクラブで先輩漫画家の悪口を言っていたら石ノ森章太郎(当時・石森)とさいとう・たかをに遭遇したり、本宮に比例代表制の仕組みを解説するのが菅直人(当時は社民連所属)だったり、公明党の竹入良勝(当時・中央執行委員会委員長)に対し創価学会における池田大作氏への個人崇拝に疑義を呈したり、そして最終的には田中角栄との面会を実現したり……と、とにかく「なんでもあり」な内容だ。

手塚治虫をはじめとする当時の人気作家たちの反応も作中でまとめられており(明確な反対者は手塚のみ)、編集者のファインプレイも随所で光っている。

候補者がマンガでルポを描くことが事前運動になるかどうかもひとつの争点となるが、そこで堀内氏が「選挙違反で捕まればそれも結果だし!」と言っているあたり、温厚そうに見えて、かなり骨のある編集者だ。さながらフィクサーのようでもある。

なんだ、やっぱり編集者版『アウトレイジ』じゃん!


なお、冒頭で述べた『フードファイタータベル』の対決は、うすた京介作の[番外編 作家Ver.]と、担当編集者作の[番外編 編集者Ver.]がアップされている。
うすた版に寄せられた「副編集長より一言」は「うちの若いもんが生意気なこと言ってごめんなさい」から始まるのだが、「うちの若いもん」って!!
やっぱりマンガ業界は、そうなのかッ!?

「このマンガがすごい!」は、ちょっぴり反社会的なマンガ業界を、これからも応援してまいります。

おひけぇなすって!

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『フードファイタータベル』第2巻
うすた京介 集英社 ¥400+税
(2016年5月2日発売)



<文・加山竜司>
『このマンガがすごい!』本誌や当サイトでの漫画家インタビュー(オトコ編)を担当しています。
Twitter:@1976Kayama

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