話題の“あの”マンガの魅力を、作中カットとともにたっぷり紹介するロングレビュー。ときには漫画家ご本人からのコメントも!
今回紹介するのは『グッド・ナイト・ワールド』
『グッド・ナイト・ワールド』著者の岡部閏先生から、コメントをいただきました!
『グッド・ナイト・ワールド』第2巻
岡部閏 小学館 ¥562+税
(2016年7月12日発売予定)
VR(ヴァーチャル・リアリティ)技術全般が日進月歩な今日このごろ。
「PlayStation VR」が予約開始から一瞬で完売するなど、VRはゲーム方面でもあらためてホットな話題になっている。
そうしたご時勢のいま、注目したいマンガが、今回取り上げる『グッド・ナイト・ワールド』だ。
小学館のWEBマンガサイト「裏サンデー」の連載作で、作者は『世界鬼(せかいおに)』でも話題をかっさらった岡部閏。
『世界鬼』は地球人類から選ばれた戦士と異世界人のアバターが生存をかけて亜空間で決闘する内容だったが、新作『グッド・ナイト・ワールド』でも、やはり現実と「もうひとつの世界」の行き来が描かれる。
そのうえで今回ドラマ的に焦点があたるのは、「家族」という枠組みだ。
まずは、大筋から見ていこう。
『グッド・ナイト・ワールド』の舞台は、体感型VR空間でプレイする多人数オンラインRPG「プラネット」。
ダンジョン攻略のほかにPvP(プレイヤー対プレイヤー)の仕様が人気を支えており、1000万人超のプレイヤーが、無数のギルドに分かれて領土戦を繰り広げている。
そんな「プラネット」で、最強と名高い存在。
それはいかなるギルドにも属さない少人数パーティ。
わずか4人で、ゲーム内領土の5パーセントも獲得しているすご腕集団だ。
人呼んで「赤羽一家」という。
父親役の頼れるナイスミドル「赤羽士郎」。
息子(兄)役で屈折した好戦的な少年「イチ」。
息子(弟)役で理知的な少年「ああああ」。
母親役の心優しい女性「メイ」。
思いやりとぬくもりに満ちた、家父長的・保守的な意味での「理想の家族」である。
しかし、ネトゲ最強ということは、多大な時間をゲームプレイに費やしているということ。悪い表現で「ゲーム廃人」の集まりだ。
たとえば、イチ。本名は、有間太一郎。
VRヘッドセットを外した彼は、飲まず食わずの長時間プレイでやせ細った陰気な姿をしている。
家に引きこもって現実世界に唾を吐く日々。
弟は受験を控えた優等生で、いつも見下した視線を感じてクソだ。
父親はくたびれた風情で、この世のつまらなさを代表するクソだ。
母親は長らく家に戻ってこなくてクソだ。
何もかもがゲームとは大違いで、クソのクソだ。
ボキャブラリーのない太一郎は、この世を「クソ」の一語で断じる。
有間家は、ある理由から家庭として破綻している。
太一郎にとって現実の家族にぬくもりはない。温度がないゲーム内ファミリーにこそ、彼を生かすものがあるのだ。
さて! ここからが本作のキモである。
イチをはじめ、赤羽一家のメンバーは、ある事実についてまだ知らない。
じつは、「士郎」が有間家の父・小次郎であること。
「イチ」が有間家の長男・太一郎であること。
「ああああ」が有間家の次男・明日真であること。
「メイ」が有間家の母・雅であること。
家族4人が、ばらばらにゲームを始めてお互いの正体に気づかずゲームで偶然出会い、現実と逆に「理想の家族」として寄り添っている。奇縁である。
「うわー、家族ってなんだろ」と考えさせる仕立てになっている。