ポイントは、有間家/赤羽一家について単純に「本当の家族の姿」「ウソの家族ごっこ」という切り分けはできない、ということだ。
現実でも、家族ひいては人間関係すべては、結局自分の役割をどのように演じるかという「ロールプレイ」の問題になってくる。
役割を演じること自体はべつに虚しいことでもウソでもない。舞台俳優は自分の役へ熱をこめて「本物」にできる。虚構だから「偽」とはかぎらない。
ロールプレイがうまくいってアツい場合と、しくじって冷める場合があるだけなのだ。
だから、有馬家の現実も含めてロールプレイの成否という一点から全体を見おろすと、『グッド・ナイト・ワールド』を読むおもしろみがより増すだろう。
家族の演じ方を問うドラマ性とつながるかたちで、ゲーム内で赤羽一家の試練となるのは、「幸せの黒い鳥」と呼ばれる超レアなモンスターの存在である。
公式運営からかけられた賞金は、仮想通貨ではなくリアルマネーでなんと3億円。
しかもその出現地域と目される領土を持つのが赤羽一家だから大変だ。取り引きや宣戦布告をしかけるギルドがわんさと現れ、家族の結束が試される。
さらにこの「黒い鳥」、別名「グッド・ナイト・ワールド」が現実に危害を加える脅威をもつことが明かされ、ゲームと現実をまたいだサスペンスが進行。
それにつれて、有間家の人々の印象がじわじわ変わっていくのも見どころだ。
とくに新刊の第2巻で、士郎=有間小次郎が「黒い鳥」の起源と深く関係するプログラマだという事情が示されてから、当初の頼りない印象がズレてある意味で怖い人間なのがわかってくる。注目のキャラクターだ。
そしてもうひとり、1~2巻を通してキーとなるのが、過去にイチとコンビを組んでいた海賊少女ピコ。
彼女が率いる海賊ギルドとの紆余曲折を通して、イチを想い続けるピコのいじらしさを丹念に丹念に描いてしみじみさせて……からの、とんでもない爆弾が炸裂!
2巻ラストのピコの絶望顔、これはもう岡部閏という作家にしか描けないビジュアルです。
『世界鬼』で見せた岡部先生の作風の鋭さは健在なり。
<文・宮本直毅>
ライター。アニメや漫画、あと成人向けゲームについて寄稿する機会が多いです。著書にアダルトゲーム30年の歴史をまとめた『エロゲー文化研究概論』(総合科学出版)。『プリキュア』はSS、フレッシュ、ドキドキを愛好。
Twitter:@miyamo_7