はたから見ればニノは「情緒がどうかしちゃった?」というくらい奇行の目立つ変人だ。幼いころからずっと一緒だったモモが姿を消して6年、「いつかお前の歌を目印にして会えたらいいよな」という言葉だけを胸に海辺で歌い続け、モモのことを想うと叫び出しそうになるのでマスクを常用している。
そんな彼女と世界を繋ぐ扉となったのがユズ。ニノはユズの書く曲を歌い、救われてきた。しかし、ユズの気持ちがニノに届くことはないのであった……って、切なすぎますがな!
この3巻では、ニノのすぐそばにいながら、もったいぶって姿を現さなかったモモ(人気作曲家に成り上がっております)が、ついに動き出す。深桜をボーカルに据えた覆面バンド“SILENT BLACK KITTY”を急造し、イノハリを潰しにきたのだ。なんとまわりくどく、歪んだ愛憎だろうか。
ただし、こんなことをされても、まったく湿っぽくならないのがニノのニノたるゆえん。運命の再会を果たしたのに、なぜか冷徹に突き放したモモに対して、落ち込むどころか「シカトされたことすらうれしい」と頬を赤らめるのだ。ステレオタイプなヒロインだったら、ズタボロになって立ち直れない展開ですよ。
こうしたニノの一途な想いが作品全体を支配し、とてつもない勢いをつけているのが本作最大の魅力。ツッコミどころはあるものの、そんなものを凌駕する圧倒的なパワーと、ページを繰る手を止めさせないエネルギーに満ちている。主要キャラが全員片想い。彼らはやり場のない想いのすべてを音楽にぶつける。そんなすがすがしいまでの衝動を、ぜひとも体感してほしい。
『覆面系ノイズ』著者の福山リョウコ先生から、コメントをいただきました!
<文・奈良崎コロスケ>
68年生まれ。東京都立川市出身。マンガ、映画、バクチの3本立てで糊口をしのぐライター。中野ブロードウェイの真横に在住する中央線サブカル糞中年。
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