ここでも美星の推理はさえわたり、『レイラ』の第1話で、いよいよ解決編という部分でアオヤマが本を閉じて、先の展開を尋ねたところ、美星は的確にその真相を言い当てる。
さらに取材に訪れたライター・深水栄嗣(ふかみ・えいじ)の言動から、深水がコーヒーにくわしくないことを見抜き、カフェの取材という訪問目的が偽りであること、さらにはその意外な正体を指摘するのであった。
このあと物語は、美星の妹・美空が持ちこんだ、彼女の後輩の女子大生をめぐってのひと騒動に美星が決着をつける、というエピソードをはさんで、急展開を迎えることとなる。
美空が「お姉ちゃん 会ってほしい人がいるの」と宣言し、その人物を「タレーラン」で待つ美星たちのもとに、「切間美空を誘拐した」という電話がかかってくる。
その一方で、アオヤマの携帯電話に美空からメールが届く。
そのメールにはタイトルがなく、本文もたったの一文字、真っ赤な太陽の絵文字だけであった。
誘拐犯からの要求を受け、身代金1,000万円を抱えて、美星とアオヤマは、藻川老人の運転する車で京都の街を駆ける。
美空のメッセージは、何を伝えようとしているのだろうか……。
こうした個別のエピソードの謎もさることながら、美空が京都に来た目的は? そして、アオヤマと美空の関係は? といった物語全体を貫く謎が、本書の読みどころで、それらも結末に向けて明らかになっていく。
また、美星の過去の悲しいエピソードが語られ、「彼女はカフェオレの夢を見る」という思わせぶりなサブタイトルの意味あいが腑に落ちるのである。
本書第1巻のロングレビューでも述べたが、これまで語られることのなかった美星のプライベートな一面が明かされるので、〈珈琲店タレーランの事件簿〉シリーズの読者としては、外せないところだろう。
ちなみに、本書の43ページでアオヤマが言及する、ブラーの「コーヒー&TV」のPVは、ネットで検索すれば簡単に見ることができる。
老夫婦のために、消息の知れなくなった息子を探しに、牛乳パックが旅に出る……という実写とアニメが入り混じった楽しい映像作品なので、ぜひ一度ご覧ください。
<文・廣澤吉泰>
ミステリマンガ研究家。「ミステリマガジン」(早川書房)にてミステリコミック評担当(隔月)。「本格ミステリ・ベスト10」(原書房)でミステリコミックの年間レビューを担当。