小学4年生のリンの1年間を描く『ひとり暮らしの小学生 江の島の夏』の続きである本作の季節は、冬。年末年始はひとり暮らしのさびしさが堪えるシーズンだが、心配ご無用。大晦日には常連客がちゃんと集まってきてくれる。
リンの味覚はちょっと独特のようで、そこは日々常連さんたちも苦労しているところなのだが……。それでもこうして店に来てくれる大人たちの存在にホッとしてしまう。
と同時に、彼らがうらやましくもある。偽善というのは野暮。もちろん恵まれない人への募金やボランティアは尊い行為だが、顔の見える相手との“善意で結ばれた関係”は理想的だ。
ここに通ってくる大人たちは一方的に施しているわけではなく、リンから多くのものを受け取っているのだから。
そして、前作では悪ガキのイメージが強かった同級生の亮とリンの関係も、一歩前進!? いっしょに初詣に行くくだりは(リンにはまったくその意識はないものの)初々しいデートのようだ。
いつまでもこの平和な……いや、かなり危なっかしくはあるがギリギリ平和な日常が続いていくと思いこんでいたので、終盤のドラマティックな展開にはかなり驚かされた。
鈴音食堂の向かいに立派なレストランができ、ますますもって経営ピンチ! そして、突然の別れ……。
心がすっきりと晴れるような感動のエピローグは心して読むべし!
小学5年、6年のリンの姿が描かれる、Kindle版にはなかった描きおろし番外編も必読。中学生、高校生のリンにいつか会えることを願ってやまない。
<文・粟生こずえ>
雑食系編集者&ライター。高円寺「円盤」にて読書推進トークイベント「四度の飯と本が好き」不定期開催中。
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