前作では、岡崎京子・魚喃キリコなどをひきあいに評された著者だが、本作はダークな味わいのホームドラマということもあり、向田邦子か、はたまた宮部みゆきや湊かなえサスペンスか!? な趣きもあり。
研ぎすまされたセリフ、映像的なカットやコマ割りもあいかわらずで、このまんまドラマ化できそう! な完成度の高さにうならされる。
前作の「写真」同様、本作では「花」が登場人物の置かれた状況を表すメタファーとして使われているのもうまい。
幸せな家族の象徴であり、その根本に巣食う不安の象徴でもあるばらのアーチ、セレブ美魔女の虚構の人生を物語るプリザーブド・フラワーや造花など、毒を隠しもった花を女性の人生に重ねて描いてみせる美しくもグロテスクな世界観に、上村一夫の短編集『花言葉』(原作は岡崎英生)を思い出したり。
シリアスで重い語り口や独特の後味の悪さは、好き嫌いがわかれるところだが、それを補ってあまりある、非凡な一冊だ。
<文・井口啓子>
ライター。月刊「ミーツリージョナル」(京阪神エルマガジン社)にて「おんな漫遊記」連載中。「音楽マンガガイドブック」(DU BOOKS)寄稿、リトルマガジン「上村一夫 愛の世界」編集発行。
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