差し入れを与えることで白夜への好意を表現しながらも、ミラは自身の気持ちを理解してもらいたいとか、あわよくば踏み込んだ関係に、などという下心は薄く、ひとり相撲の純愛を続ける。
この構造は恋愛というより「萌え」や「熱心なファン」の行動に近い。怜悧冷徹な悪の参謀のはずが、戦うべき相手をより深く知れば知るほど庇護欲をそそられ、すっかり戦意喪失を起こしてしまっている。
どことなく、数年前、蔑称として使われたはずの「日本鬼子」が、角が生えた萌えキャラとして擬人化され、日本へ向けられた悪意がうやむやになった、との件を思い出ださせる。
(そういえば『妖狐×僕SS』の白鬼院凜々蝶もかわいらしい鬼娘であった。)
2人の不可解な関係性は、さすがに組織から危険視され、同僚のフォーマルハウトが魔法少女討伐を補佐することになり、ミラも遊びは終わりと決意する。しかし、あっさりと単純なフォーマルハウトの目を欺きつつ邪魔な彼を「消す」方向に傾く。さらに、フォーマルハウトもまた白夜と仲良くなりつつあることで、ミラの心配の種が増えてしまう。
個人対個人として触れ合えばわかり合えるはずなのに、置かれた立場だけで敵対していることの無意味さ。ゆるゆるな萌えるラブコメディのなかに、そんなメッセージがさりげなく隠れているかのようだ。
このまったり感を楽しんでいたいが、妖怪の先祖返りたちの和気あいあいとした同居コメディから、シリアスな急展開を遂げた『妖孤×僕SS』の作者の手の内は、まだ見えていないようにも感じる。1巻ラストに突如として登場した「鳥」や、個性豊かな悪の幹部たちがどう出るかなど、まだ油断はできなさそうだ。
『かつて魔法少女と悪は敵対していた。』著者の藤原ここあ先生から、コメントをいただきました!
<文・和智永 妙>
ライターたまに編集。『このマンガがすごい!』以外に、「マンガナビ」公認ナビゲーター、ほかアニメ記事など書いています。