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『このマンガがすごい!comics 佐武と市捕物控 隅田川物語』 石ノ森章太郎 【日刊マンガガイド】

2017/04/23


日々発売される膨大なマンガのなかから、「このマンガがすごい!WEB」が厳選したマンガ作品の新刊レビュー!

今回紹介するのは、『佐武と市捕物控 隅田川物語』

  
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『このマンガがすごい!comics 佐武と市捕物控 隅田川物語』
石ノ森章太郎 宝島社 ¥590+税
(2017年4月22日発売)


正義漢でイケメンの下っ引き・佐武と、ニヒルな盲目の按摩・市が、江戸の町で起こる難事件に挑む、石ノ森章太郎の名作時代劇『佐武と市捕物控』が、このたびエディションも新たに傑作選でよみがえる。

基本的に1話完結の連作ミステリー形式で長きにわたって描き継がれた本作。
その始まりは、1966年に「少年サンデー増刊号」で発表された読み切り作品縄と石捕物控・赤い猫』だ。
続く2作目からタイトルを『佐武と市捕物控』にあらため、同誌に計7作を掲載。翌年には「週刊少年サンデー」の連載となり6作が追加された。
掲載誌に明らかなとおり、当初は少年マンガとしてスタートしたが、さらに翌年、小学館が満を持して創刊した青年誌「ビッグコミック」に発表の場が移ると作風が一変。
当初の丸っこい絵柄からハードな劇画タッチに転じ、72年春の終了まで約3年間にわたる人気連載に。
さらには、そのあとも不定期掲載の読み切りや描き下ろし単行本で新作が描かれ、最終的に総エピソード数90本を超える石ノ森の代表作となったのである。

現在は“縄と石”シリーズに括られる「少年サンデー」版ももちろん秀作揃いだが、やはりその本領が発揮されたのは「ビッグコミック」連載以降。リアルなタッチで描かれる江戸時代の景観と、人間の業や闇を容赦なくえぐるヘビーな物語は、掲載媒体が大人の読者に向けた青年誌だからこそ表現しえた、まさに石ノ森の真骨頂だ。

真骨頂といえば、石ノ森作品を評する際の枕詞に“実験的な演出”があげられるが、そのコマ割りの妙が圧倒的に冴えわたった時期が60年代末〜70年代初頭で、タイミング的にはまさに『佐武と市捕物控』の「ビッグコミック」連載時期と一致する。
回が進むにつれ先鋭化していく本作のマンガ表現に、石ノ森のあくなき挑戦とたぐい稀なる作家性が如実にうかがえるのである。

その魅力を骨の髄まで味わうなら、もちろん全エピソード必読だが、電子書籍『石ノ森章太郎デジタル大全』版で全18巻(うち第1巻と2巻は少年誌版)とかなりボリューミーで、マニアならいざ知らずビギナーがいきなり手を出すには正直ハードルが高い感は否めない。
その点、“佐武と市捕物控”の世界を手軽に味わえる、うってつけの良書としてオススメなのが、今回刊行された傑作選だ。

発売タイミングに合わせ、季節感あふれる春夏エピソードを8編収めた『隅田川物語』は、「ビッグコミック」の連載初回となった表題作から連載終盤の掲載回まで収録作の発表時期が多岐にわたり、江戸情緒に貫かれた作品自体のおもしろさはもちろん、石ノ森演出の進化も感じられるナイスチョイス。
盲人の市が仕込み杖で人を斬り続ける己に苦悩し、自問自答を繰り返す中、斬り合いこそが生きがいと語る浪人とのネガポジ対決で派手に斬り結ぶ、石ノ森イズム全開な異色哲学アクション編「熱い風」も収録されており、いろんな意味で入門編として格好の1冊となっている。
男と女の痴情のもつれをテーマに9編が収録された、同時発売の『野ざらし』と合わせ、未見の方はぜひともこの機会に一読いただきたい。

ともすれば表現がエッジィすぎるあまり、お世辞にも読みやすい、わかりやすい、とはいいがたい当時の石ノ森作品。
69年~70年にかけて「週刊少年マガジン」で連載された壮大極まりないSF叙事詩『リュウの道』は、その実験性がひとつの頂点に達した際たる例だろう。
一方、1話完結の物語をフォーマットに人間の悲喜交々を描くエンターテイメント性と、エッジの立たまくったマンガ表現の追求を両立させた好例が、この『佐武と市捕物控』ではなかったか。

その魅力をひと言でいい表すなら、当サイトのタイトルよろしく、まさに「このマンガがすごい!」。
ある意味、本作は石ノ森作品においてひとつの理想的なカタチであったといって過言ではあるまい。
そして、そんな“すごい!”タイトルの傑作選で収録エピソードのセレクトを行ったのが、じつは「このマンガがすごい!」編集部だったりするあたり、これはこれでじつによくできた話というかなんというか。
ある意味、本作の刊行は歴史的必然であったといっても過言ではあるまい(←明らかに過言)。



<文・鴬谷五郎>
怪獣怪人ライター。著書に『魂の仮面ライダー爆談!![COMPLETE+](共著:村枝賢一)』『東映ヒーロー仮面俳優列伝』(ともに辰巳出版)など。
最近、特に好きなダークロボットはアカオニオコゼ……にかぎらず全部。

単行本情報

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