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『力道山プロレス地獄変 木村政彦はなぜ力道山を殺さなかったのか~最終章~』 上巻 原田 久仁信(画) 増田俊也(作) 【日刊マンガガイド】

2017/06/13


日々発売される膨大なマンガのなかから、「このマンガがすごい!WEB」が厳選したマンガ作品の新刊レビュー!

今回紹介するのは、『力道山プロレス地獄変 木村政彦はなぜ力道山を殺さなかったのか ~最終章~』

  
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『力道山プロレス地獄変 木村政彦はなぜ力道山を殺さなかったのか~最終章~』 上巻
原田久仁信(画) 増田俊也(作) 双葉社 ¥900+税
(2017年4月22日発売)


原田久仁信――。
たとえばその名前は、並のレスラー以上にプロレス界に轟いているかもしれない。
梶原一騎原作による『プロレススーパースター列伝』の描き手で、その梶原の自叙伝的作品『一騎人生劇場 男の星座』も手掛けた漫画家。
少なくとも往年のマンガ読みには、プロレスといえば原田氏のマンガのイメージという人も多いんじゃないだろうか。

そんな原田が己の命を懸けると宣言して着手したのが、増田俊也によるノンフィクション『木村政彦はなぜ力道山を殺さなかったのか』をマンガ化した、『KIMURA 木村政彦はなぜ力道山を殺さなかったのか』だ。

1954(昭和29)年12月22日、当時、プロレス界で人気絶頂だった力道山と、柔道界から転身した“日本柔道史上最強”といわれる男・木村政彦が、それぞれ己の実力のすべてを懸けて対戦することになる。
しかしこの試合にはあらかじめ台本があり、引き分けに終わることが事前に決められていたが、ゴングが鳴ると力道山は一方的に木村を叩き潰しにかかり、木村は惨めな姿を日本中にさらすこととなってしまう。
長年のパートナーとして組んできた力道山の裏切りを許せなかった木村は、短刀で彼を殺そうと思い立つが……。

原作では「昭和の巌流島決戦」に至るまでの木村の半生と試合の顛末、その後が描かれていたが、『KIMURA~』は対戦に至る前に単行本の刊行がストップ。
その続きが、今度は『力道山プロレス地獄変 木村政彦はなぜ力道山を殺さなかったのか~最終章~』のタイトルのもと、上下巻で発売された。

ここで描かれるのは、力道山とタッグを組んで一躍人気者となりながらも、筋書きのあるプロレスの枠のなかで力道山の引き立て役となって、また経済的にも困窮していく木村の影の部分。
一方で、プロレスというエンターテインメントの立役者となって事業家としても成功を見せる力道山の光の部分。
もちろん「昭和の巌流島決戦」はボリュームを割いて描かれているが、真に浮き彫りになるのはよくも悪くも、古いタイプであった木村と新しいタイプであった力道山による、男として、格闘家としての在り方の対比とその人生の対比だ。
そこにこそ葛藤と衝突があり、それこそが戦いで、それがもう決戦だったのではないか。本作を読むとそう思えてくる。
原作よりさらに内面描写が描きこまれていて、著者ならではの強い描線で描きこまれているせいもあるのかもしれない。
人生こそが戦い。それが近年の『プロレス地獄変』含め、著者が描いてきたことだ。

さて、なぜ木村は力道山を殺さなかったのか。
じつは原作と違い、本作ではそこは語られていない。
そもそも最終章はメインタイトルから木村の名が消え、力道山の名が冠されている。
なぜ力道山が最終章のタイトルとなったのか。むしろ本作は新たな疑問を提示する。

多くを語ればネタバレになってしまうが、最終章における木村と力道山の描かれ方が、2つのなぜの答えにはなっているかもしれない。
そしてもうひとつわかることは、原田久仁信はプロレスとプロレスラーを愛していて、あくまでそこから見た、そこに拠った立ち位置にいるのだということ。
そういう意味では、原作とはまた違う感慨をもたらす物語ともなっている。
これぞ劇画な一作だが、骨太な絵柄と合わせ、プロレスに対して骨太な臨み方をしている著者のマンガ人生とスタンスもまた劇画的だ。



<文・渡辺水央>
マンガ・映画・アニメライター。編集を務める映画誌『ぴあMovie Special 2015 Spring』が3月14に発売に。映画『暗殺教室』パンフも手掛けています。

単行本情報

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